お庭番と秘蔵っ子から学んだ角栄イズム
近ごろ、田中角栄元首相が大きなブームとなっているようです。書店では何種類もの関連本が平積みになっており、私も最近何冊か読みました。
いまの時代に、角栄氏が脚光を浴びるのはなぜなのか。それは、この20年ほどで時代が一巡したためではないかと感じています。
角栄氏が活躍したころの政治家の役割は、大きな方向性を示すことでした。優秀な官僚を使いこなして細かな政策を任せ、大きな決断を下し、結果への責任は自ら取る。これが、かつて求められていた政治家像でした。
しかしその後、1993年の細川連立政権の誕生により、自民党が野党に転落。自民党と霞が関が一体となって政権を運営するシステムに風穴が開きました。新たなタイプの政治家が、細かな政策論や、官僚に伍する実務能力を競い合うようになり、各政党は「マニフェスト」で政策の数値目標や達成期限、財源をいかに具体的に示すかに心血を注ぐようになりました。
その後、紆余曲折を経て、2009年にわれわれ民主党(当時)が「脱官僚」「政治主導」を掲げて政権交代を果たしました。民主党政権では事務次官会議を廃止したり、事業仕分けを行ったり、政治家自らが電卓を叩いて予算編成をしたりと、さまざまな挑戦をしましたが、上手くいかなかった。いま振り返れば、霞が関との無意味な偏差値競争に陥ってしまっていた面があります。
そんな中、東日本大震災の発生により、政治家は再び大きな政治判断を迫られるようになりました。こうした流れの中で、理想の政治家像の振り子が戻るかのように、角栄氏が再評価されるようになったのではないでしょうか。
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source : 文藝春秋 2016年08月号