三菱自動車 経営改革が元凶だった

特集 三菱財閥失敗の本質

井上 久男 経済ジャーナリスト
ニュース 経済 企業

 燃費不正を生んだ開発現場と益子会長の深い溝

益子修氏 ©時事通信

 日産自動車と三菱自動車は5月12日、緊急の共同記者会見を開き、日産が三菱に34%出資すると発表した。今後、隠れ債務などがないかを確認するデューデリジェンス(資産査定)を行い、日産は2370億円を投じて三菱を傘下に収める。この提携によって、「日産―仏ルノー連合」に三菱の販売を加えれば、世界で950万台程度に達し、約1000万台を売る世界1位のトヨタ自動車に肉薄、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)とほぼ肩を並べる世界2位グループに浮上する。

 会見の場で日産のカルロス・ゴーン社長(CEO)は、「両社の提携は広範囲に及ぶ戦略的なアライアンスでWIN―WINの関係だ。これから新しい旅が始まろうとしている」と語り、高揚感を隠さなかった。一方、三菱の益子修会長(CEO)は開口一番、「ゴーンさん、ありがとうございます。この場にいることが光栄です」と、へりくだった感じで切り出した。筆者も会見に臨んだが、両経営トップはともに笑顔ながらも、ゴーン氏がいつもより眼光鋭く、獲物を見つけた鷹のような目つき、益子氏は無理に笑顔を繕った感じだったのが印象的だった。

 両者の表情の差に、この提携の「本質」が現れている。ゴーン氏にとって、三菱は弱り果てて抵抗する気力、体力もない「カモ」以外の何物でもない。三菱がなぜ無気力なカモに成り下がってしまったのかといえば、それは「身から出た錆び」に他ならない。

 この両社の提携は、わずか2週間余という大企業の資本提携にしては異例の猛スピードで進んだ。ことの発端は、提携発表から3週間ほど前の4月20日、国土交通省における三菱の相川哲郎社長の謝罪会見だった。同社が製造する軽自動車eKワゴンなど4車種62万5000台で、燃費を実際よりよく見せるため試験データの不正をおこなっていたことを明らかにしたのだ。

 この不正発覚の経緯を説明する前に、まず簡単に日本の制度を説明するとこうなる。メーカー各自が新車開発段階で、テストコースでタイヤや空気による抵抗値などを測定、そのメーカーの申告データを元に国土交通省の外郭団体が、「シャシーダイナモ」と呼ばれる室内のローラーの上で車を走らせ、確認・審査して燃費値が定まる。この値がカタログに記入される公式値だ。メーカーの測定方法は道路車両運送法によって定められている。

名門というプライド

 メーカーの実験による申告値をベースに同省が審査して公式値が定まる自己認証制度である。この制度は、メーカーが自己申告するデータに不正がないという「性善説」の上に成り立ち、年間4000件近くある審査作業の効率化を進め、行政の肥大化を防いでいる面もある。

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source : 文藝春秋 2016年07月号

genre : ニュース 経済 企業