張り子の虎か、真の脅威か――元指揮官たちによる徹底分析
伊藤 1月6日の北朝鮮の自称「水爆」実験、2月7日の長距離弾道ミサイル発射と、東アジア情勢が急速に緊迫の度合いを増しています。中国は、尖閣諸島付近への侵犯を依然として繰り返し、日本のシーレーン(重要な海上交通路)であるスプラトリー(南沙)諸島に周囲300キロが探知可能なレーダーを配備するなど、軍事要塞化を進めています。そこで今回は、陸海空それぞれの視点から、日本をめぐる周辺諸国の脅威について議論してほしいということですが、まずは北朝鮮について論じていきましょうか。
永岩 先の安全保障法制に係る議論で決定的に欠けていたのが、日本を取り巻く軍事情勢を真摯に分析するという態度ですね。
北朝鮮についても、まず、朝鮮半島を取り巻く情勢や南北の軍事バランス等を冷静かつ正確に掌握しなければなりません。ちなみに、南北の軍事バランスは、米軍の関与を加えるまでもなく、通常戦力比較では韓国の方が有利な状況に推移しています。そこで北朝鮮は、「先軍政治」のもと、核武装こそ、北朝鮮の生き残りに合致した国防政策であると思い込んでいる節があります。
磯部 そうですね。付け加えるなら、一口に「北朝鮮の脅威」といっても、相対する国ごとにその意味するところは違います。そこを理解しないと、同床異夢のままに北朝鮮に対応することになってしまいます。
まず日本にとっては、ノドンやテポドンのような中距離ミサイルによる攻撃と、特殊部隊による作戦が脅威になります。次にアメリカにとっては、最新型の大陸間弾道ミサイルが本土を狙っていることがポイントです。一方、韓国は常に北朝鮮の圧迫を至近距離で感じています。38度線にある非武装中立地帯の100キロ以内に、北朝鮮は陸上兵力の7割を集中させています。170ミリの火砲、240ミリの多連装ロケットなどが首都・ソウルを狙っているのです。2010年に国境近くの延坪島が、北朝鮮に砲撃されたのは記憶に新しいところです。
伊藤 北朝鮮の軍備を陸海空で具体的に分析してみましょう。
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source : 文藝春秋 2016年04月号