「鶴瓶の家族に乾杯」20年

作らない笑いだからオモロイ

ライフ 医療

 独自のスタンスで語るテレビ論と、自分の家族(取材・構成 戸部田誠)

笑福亭鶴瓶氏 ©文藝春秋

 よくオモロイ人に出会ったり、信じられないような偶然の出来事に遭遇しますけど、これ、引きが強いわけじゃないんですよ。ホントにそうですよ。

 僕、45年この世界にいてるんですけど、昔からこんな人間ですから。テレビ撮ってなかっても毎日こんなんですよ、マジで。それがたまたま『鶴瓶の家族に乾杯』として番組を撮ってるからそう見えるだけで、普段からそんなことがありますね。だから引きが強いとかじゃない。何が言いたいかというと、「作らない」からですよ。芸人ってやっぱり作り込みますからね。だから、今までにない芸人を目指そうとしたら作らないことですよ。1つ作ると全部作らなあかん。作らないとそういう偶然が起きるんですよね。ゲストの方もよう言わはります。「ほんまに作ってないの?」って。

 今年で放送20年目を迎えた『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK総合)。4月から放送時間が月曜日の19時30分〜20時43分の73分番組にリニューアルされた。笑福亭鶴瓶がゲストの希望した土地に「ぶっつけ本番」で行き、そこで出会った地域の人たちと触れ合う番組だ。リニューアル初回はゲストに柄本明を迎え、広島県呉市の大崎下島と豊島へ。
 私はロケにも密着したが、事前に「作らない」ことへの徹底ぶりに驚かされた。何しろ、現地の人はもちろん我々にも直前まで具体的な行き先が明かされないのだ。
 いざロケが始まると、いきなり「歯を食べた」というおじさんに出会い、「ドンキ1号」なる古い商店に似つかわしくない名前のお店を訪ねると、その店主のおばあちゃんがなぜか頬に大きな絆創膏をしていたり、最後はひょうきんに下ネタを連発させながら妻とのノロケ話をするおじいちゃんに遭遇したりと、次々に強烈なキャラクターの人たちが鶴瓶に引き寄せられていった。

まるで「1つの寄席」

 スタッフが誘導しようとすると怒りますよ。自分が行きたいと感じるところに行く。するとこういうことが起きるんですよ、やっぱり。つかみがあって、ちょっといい人情話もあるじゃないですか。これ、もう1つの寄席ですよ。

 移動中の車の中でパッと見たら「ドンキ1号」って見えたんですよ。普段からそうなんですけど、「エッ」って思う看板はやっぱり見てしまう。それが気になると行かなあかんのですよ。「歯を食べた」おじさんも、それまで何人か通りかかって、あの人だけを呼び止めたのは、全体のフォルムが面白そうだったから。この番組に出る人、歯ない人多いんですよ(笑)。近づいてまた歯ない人やな、と思っていたんですけど。そしたら「歯を食べた」と。ふふふ。あの人の人間性がオモロイわけですよ。別にテレビに出たいわけじゃないんですよ、あの人。自然なんですよ。

 この番組は、出たそうに来はる人には一切行かないです。あとテレビに映るのが嫌だと思う人には、絶対に行かない。行ったら、だって気の毒でしょう? それと、嫌だと思うことは質問しないですよね。嫌な気にさすのんって嫌じゃないですか。でも、口で嫌だって言っても、本気で嫌じゃない人は分かりますからね。近寄ったら明るくならはるでしょ? ちょっと高揚して若くなるじゃないですか。無理やり何かをさすんじゃなく、どんどん乗ってきはることを待って、やっぱり楽しんでくれはるようにしないと。

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source : 文藝春秋 2016年05月号

genre : ライフ 医療