医学の進歩を背景として、多くのがん種の「5年生存率」が60%を超えてきているなか、膵がんの生存率は唯一、一桁台で低迷を続けています。「見つかった時はもう手遅れ」と言われるほどで、私も医師として、その恐ろしさをたびたび実感してきました。
膵がんが発生するメカニズムが明確になったのは、2000年以降のことです。膵臓でつくられた膵液を十二指腸に送る管を膵管といい、膵管が集まって本流となった管を主膵管といいます。膵がんは最初、この膵管か主膵管の上皮に発生しますが、その際に膵管が微妙な“歪み”を見せることが分かったのです。この膵管の上皮内だけにがんが留まっている状態のことを、「0期」や「超早期」と呼びます。
膵がんから助かるには、早期発見が肝要です。正確に言えば、「1A期(がんが膵臓の中に留まっていて、最大径が20ミリ以下)」の段階で発見し、腫瘍を手術で切除すれば、長期生存の可能性も大きくなります。
ただ、膵がんの早期発見は簡単なことではありません。自覚症状が出にくく、なかなか気づかない。症状が出る頃には病気がかなりの段階まで進行してしまっています。
検査の危険性も、早期発見を難しくしている要因の一つでした。がんが腫瘤(かたまり)を作る前の膵がんの確定診断には、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)と呼ばれる検査が必要になります。
ERCPとは、口から入れた内視鏡の先端から伸びるチューブを、十二指腸乳頭部から挿入して造影剤を注入し、レントゲン撮影によって診断するものです。このチューブの挿入が急性膵炎などの合併症を招くリスクがあり、まれに重症化して命にかかわることもあるのです。しかも、検査をしてみると膵がんではないケースも多い。患者や医師からすれば、膵がんかもしれないというだけでリスクのある検査に挑むのは、心理的なハードルが高いのです。
考えあぐねていた私が賭けに出たのが、2007年から開始した「尾道方式」でした。
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source : 文藝春秋 2022年12月号