ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問に抗議し、中国は8月上旬1週間にわたって台湾周辺海空域で実弾を用いた合同戦闘演習を実施した。台湾周辺の海域のうち6つの対象区域を全体を取り囲むように設定し、中国本土から台湾上空を超えて弾道ミサイルを発射した。空対地ミサイルを搭載した戦略爆撃機がシミュレーション攻撃を行った。台湾の東側に演習区域を初めて設け、ミサイル5発を日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾させた。台湾侵攻の予行演習を実施した形である。
G7の外相たちは共同声明で「攻撃的な軍事威嚇行為の口実に訪問を利用することは正当化できない」と批判した。この「口実」という表現が今回の中国の激しい反応の本質を衝いている。中国は、相手の「挑発」に対してやむなくこちらも行動している、と受け身を装いつつ、実際は仕掛けているのだ。
10年ほど前、紛争予防の国際的NGO、国際危機グループ(ICG)が南シナ海における中国の海洋攻勢を「反動的攻勢(reactive assertiveness)」と名づけたことがある。いくつかの礁の領有権をめぐって中国は近隣諸国に対する威圧行動を繰り返したが、その際、相手のちょっとした動きを「挑発」だと騒ぎ立てた。そしてそこを人工島に変え、滑走路を敷き、レーダーとミサイルを配備してしまった。やられたフリをして倍返しでやりかえし、現状を自らに望ましいように変更する。そのような反動的かつ計算された攻勢のことである。
今回も中国は、ペロシ訪台を「口実」にして、台湾に対する威嚇演習をニューノーマルにする「反動的攻勢」に打って出ている。次のように「現状」を変えるのが狙いだ。
第1に、中国が台湾軍事侵攻を本気で考えていること、そして中国は台湾を海上封鎖し、経済の息の根を止めることができることを台湾の人々に分からせ、“ムダな抵抗”をあきらめさせる。台湾を孤立させ、台湾人の無力感を深める。
第2に、中国の近隣地域における軍事力が1996年春の台湾海峡危機の時とは比べものにならないほど増大しており、対中抑止はもはや難しいことを米国、日本などに分からせる。
第3に、国際水域である台湾海峡は中国の「勢力圏」にあり、事実上“中国の海”であることを世界に認めさせる。
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