本当は情の人だった川上哲治さん

森 祇晶 元西武ライオンズ監督
エンタメ スポーツ

非情なイメージはマスコミが作った虚像だった。一番弟子が語る、V9監督の真の姿(取材・構成 渡辺勘郎)

川上哲治元巨人監督(写真右) ©時事通信

 十月二十八日に川上哲治さんが九十三歳で亡くなりました。突然の訃報に触れ、「まさか」と唖然となり、何も手につきませんでした。十一月八日、ハワイから帰国し、その足で、ご自宅にお伺いし、お線香を上げました。実は、川上さんが亡くなる前、その日にお会いする約束をしていたのです。

 僕は十年ほど前からハワイに住むようになったのですが、日本に来たときには必ず川上さんと会っていました。亡くなる半月ぐらい前に「日本に帰るのでお会いしたい」と、いつものように連絡を入れると、息子さんから「日によって体調が良かったり、悪かったりしますが、森さんが来てくれたら父も喜びます」と言われていたのです。

 川上さんとは、僕が巨人に入団して以来、五十年以上、公私にわたって、お付き合いさせていただきました。まさに師というべき存在でした。

 昭和三六年、ジャイアンツ監督に就任されました。当時僕は入団七年目、前任の水原茂監督時代に、正捕手の座を勝ち取っていましたが、この年の宮崎キャンプは生涯、忘れることができません。まさに川上さんは日本プロ野球に“革命”を起こしたのです。

 いつも川上さんは誰よりも早くグラウンドに現れ、率先して小石を拾っていました。プロとはいえ、当時はまだ専属のグラウンドキーパーもいない時代です。選手が怪我をすれば戦力に響くし、なにより選手自身の成長も妨げると配慮していたのです。

 このキャンプでは、様々な器具がジャイアンツに初めて導入されました。今でこそどこの球団にもあるバッティングマシーンが置かれ、練習場にはじめてダンベルが持ち込まれたのも、この年のことでした。

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source : 文藝春秋 2014年01月号

genre : エンタメ スポーツ