安倍首相は江戸の改革者に学べ

武士のアベノミクス

磯田 道史 国際日本文化研究センター教授
ニュース 政治 歴史

江戸時代、幕府・諸藩でも経済再建は大問題だった。危機に臨んだ改革者たちの姿勢を見よ

安倍晋三首相 ©共同通信

 日本銀行の黒田東彦総裁によって、金融の「異次元緩和」が発表されるのを、テレビで見ていた。

 黒田総裁がいうリフレ政策「金融の異次元緩和」は、(一)日銀が世間に供給するお金を今後二年間で二倍に増やす、それによってお金の総量を大きくし、(二)物価上昇率を年二%の安定目標までもっていく、それが実現するまで、この政策をつづける、ということであろう。

 こうしたリフレ政策について、前任の白川方明総裁が退任の記者会見で「市場を思い通りに動かすという意味であれば、危うさを感じる」「過去の日本や近年の欧米をみると、マネタリーベース(中央銀行の通貨供給量)を増やせば物価が上昇するというリンク(相関関係)は断ち切られている」と述べていた。両者の立場は一八〇度違う。江戸時代にも、こういう対立はあって、いつまでたっても同じなのだと、感慨深かった。

 白川前総裁が「過去の日本」というとき、その過去とは、どれぐらい昔までを指すのか知らないが、この発言は退任会見ならではの、多分に政治的な意味合いをもった少々いじわるな発言かもしれない。「市場を思い通りに動かす」ことができるなどとは、黒田総裁もふくめて誰も思っていないだろう。もとより市場は思い通りにはいかないが、日銀の金融政策で、市場を動かす努力はやってみるべきだ、という話を、白川前総裁はすりかえているように感じた。また、後段の、「通貨供給量を増やせば物価が上昇するというリンクは断ち切られている」という前総裁の言葉については、長い間の経済の歴史をみているものからすれば、「それはないだろう」と、直感した。

元禄時代のリフレ政策

 歴史をみたい。江戸時代以来の経済現象をずっとみてみると、やはり、通貨供給をふやすと、物価は上がる傾向をみせてきたように思う。

 日本史上、お金を増やすことと、物価が上がることの「リンク」、相関関係が、統計的に最初にわかるのは、

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

「文藝春秋電子版」は雑誌付きプランが断然お得!! 電子版分は実質無料 今すぐお申し込み

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2013年11月号

genre : ニュース 政治 歴史