順調なすべり出しに見えるアベノミクス。しかしそこには「三つの壁」が──
華々しく登場したアベノミクスは、デフレ脱却に向けて今までのところ(2013年5月)順調なスタートを切っている。円相場は政権発足前の1ドル80円前後から一時は101〜103円へと円安が急展開し、これに呼応して株価も急上昇をみせた。ただこの好スタートを、真性のデフレ脱却と持続的成長に結実させるためには、多くの壁をのり越えなければならない。
その第一の壁は「消費税増税」である。すでに自公民三党により「消費税の10%への引き上げ」が合意されており、経済界もマスコミも引き上げやむなしとの見方が大勢となっている。
国内のみならず、国際通貨基金(IMF)までもが、日本はヨーロッパを見習って消費税を15%に引き上げるべきだと勧告しているが、大きなお世話だと言いたい。古い話で恐縮だが、私は昭和41年、大蔵省からIMFに出向し、6年間、ジャパン・デスク担当だった。当時の対日勧告文は私が作成していたのである。IMFといっても、日本に対して特段の情報や分析を持っているわけではなかった。
しかし、本当に消費税は社会の救世主となるのだろうか。そもそも消費税は、低所得者からも確実に税金を吸い上げる制度で、逆進性が高いのだ。生活必需品の軽減税率や低所得者への給付金などは目くらましのあめ玉に過ぎない。消費税大国ヨーロッパの最近の惨状をみるにつけ、付加価値税(VAT)主導の税制はかえって貧富の差を拡大する、と考えざるを得ない。
しかも現在、政府は消費税増税の一方、国際競争力強化のためと称して、法人税の引き下げをはかろうとしている。企業を儲けさせた穴埋めに、消費増税を流用しようとしているのだ。
デフレ下の財政再建は禁物
第二の壁は「時期尚早の財政再建」だ。政府の発表によれば2012年3月末の債務残高は960兆円(実績)にものぼるが、実は、この数字は実態以上に「危機」を誇張した数字なのである。
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source : 文藝春秋 2013年07月号