事件は時代に警鐘を鳴らす。日本人の本質がそこに立ちあらわれる
私は、事件は常に、時代に対する警鐘という意味を持っていると考えています。たとえば残忍な少年事件も、一見、特異な家庭に育った特異な少年が起こしたものとみえますが、その背景を詳しくみていくと、その時代のありようが色濃く反映していることがわかる。時代の抱えている問題や矛盾が、事件という形で現われているのです。
昭和四十三年に起きた「永山事件」は十九歳の少年による連続射殺事件として、当時の社会に大きな衝撃を与えました。これは、まったく特異な事件のように思えます。
永山則夫は北国の極貧家庭で育ち、両親から育児放棄され、殴られ、学校教育も満足に受けられなかった。その成育歴は実に酷いものでした。彼が生まれたのは昭和二十四年。まだ戦争が終わって四年しか経っていない時期で、親に捨てられた子どもや学校もろくに通えない子どもも珍しくはありませんでした。極貧階層の大人は食べて生きるのがやっとで、子育てなんか眼中になかった。事件当時、高度成長期に入っていたとはいえ、戦後の貧しさの残した傷は深く、その膿が噴き出した事件だったという時代背景を見ることが重要です。
また、重要な社会変動も「事件」として捉えると意味づけが明確になる。
たとえば自殺者数です。それまで年間二万人台の前半で推移してきた自殺者数が、突然三万人の大台に乗ったのは平成十年でした。後で詳しく述べますが、私は、この年は現在の日本を考える上でカギとなる重要な年だと考えます。この年、前年の約二万四千人から、なんと約八千人も増え、約三万二千人が自ら命を絶ったのです。航空や鉄道の事故で百人の死者が出たら大事件です。一年間に死者増加分だけで八千人というのは、大変な「事件」としか言いようがありません。それから平成二十三年まで十四年連続で自殺者は三万人を超え続け、累計で四十数万人に達しています。地方の中核都市が一つ消滅したに等しい。この統計を見るだけで、この時代に何か異様なことがあったと推測できる。
さらにライフスタイルの変化や文化的な流行現象のなかにも「事件」としてとらえるべきものも少なくない。そうした視点から、様々な事件を読み解いていきたいと思います。
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source : 文藝春秋 2013年02月号