三公社の民営化プランを政府に具申した土光敏夫(1896〜1988)は、清貧で知られていた。元秘書が聞いた土光語録を明かす。
経済団体連合会(当時)会長の土光さんの秘書に就いたのは第二次石油ショックが起きた1979年、高度成長を謳歌した日本の脆弱さがあらわれ、2年後には行革の土光臨調が始まる、そんな頃です。
当時の土光さんには財界というより、国を思う気持ちが強かった。「経団連を潰すぞ」とたびたび職員に雷を落としたのも、「言われたことだけやる」組織の緩みへの危機感ゆえだったのではないでしょうか。
「過去は見るな」が土光流。「どれだけ進んだか」を求め、できない理由は認めない。政府への提言でさえ「書いて終わりじゃない」と実現にこだわった。スピーチライターだった私も「同じ原稿は書くな」「俺が知らない話を必ず入れろ」と指示され、勉強に必死でした。
政府に物言う姿勢からついた綽名は「怒号さん」。有力政治家に対しても直言するから直接返って来る。電話を取ると「大平です」と首相の声だったこともあります。
原発の稼働率を上げろと熱心に言う一方、自然エネルギーへの強い関心をすでにお持ちでした。夜に乗った新幹線の窓から煌々と灯りがついたビニールハウスを目にすると、「石油の塊だ」と嘆息。「自然の中で育つものを食べるべきで、石油を焚いて作るのはおかしい」と。
朝が早く、夕食の招待は皇居の晩餐会ですら辞退した。自宅では、庭でつくった野菜が食卓にのぼり、靴下は穴が空いても「まだ履ける」。「便利や飽食に浮かれるうち国は亡びる」と憂いていました。厳しい人でしたが、こうも言っていました。
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source : 文藝春秋 2023年1月号