戦後、皇太子(現・上皇)の教育係を務めた小泉信三(1888〜1966)。『日本共産党』の著者、中北浩爾氏は、敵対したマルクス主義者たちからの小泉評に着目する。
日本共産党は今では象徴天皇制を認めているが、かつては天皇制にとって最大の敵対者だった。戦前、治安維持法で激しい弾圧を受けた一つの理由も、そこにあった。不倶戴天の敵といってよい。
慶応義塾塾長を務めた小泉信三は、マルクス主義批判で論壇にデビューした経済学者であり、戦後は東宮御教育常時参与となって皇太子(現在の上皇)の帝王教育を担った人物として知られる。小泉を通してみても、天皇制と共産党が水と油の存在であるように思えてくる。
ところが、その小泉が1966年、78歳で生涯を終えた時、同年7月号の本誌に意外な人物が寄稿している。当時の共産党議長、野坂参三その人だ。
野坂は小泉の慶応の教え子で、マルクスとエンゲルスの『共産党宣言』の英訳本を貸してもらったと振り返る。「これによって、わたしがマルキシズムにはいる決意をかためた、といってもいいと思う」と、野坂は記している。
共産党系の講座派マルクス主義に対抗する社会党系の労農派マルクス主義の巨頭、大内兵衛(元東大教授)の寄稿も味わい深い。大内は、小泉のマルクス主義批判を「私は批評された方だが、あまり当っていなかった」と書く一方で、「小泉君は保守思想の人として、一生一貫したのが立派だ」と褒めている。
大内の後輩として社会党に巨大な理論的影響を与えた向坂逸郎(元九州大学教授)は、その半年前の本誌で、大内とはやや違う見方を示している。曰く、「小泉さんのマルクスの理論に対する批評の多くは、批判として最高のものである」。
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source : 文藝春秋 2023年1月号