1968〜70年に各地で盛り上がった全共闘運動で、日大全共闘の議長を務めた秋田明大(あけひろ・75)。同じく学生運動を率いた大宅賞作家・樋田毅氏による人物論。
秋田明大の演説を、実際に聞いたことがある。場所は名古屋テレビ塔に隣接した久屋広場だったと思う。時期は1970年ごろ。当時、私は愛知の高校生で、好奇心で出かけた。聴衆は50人ほど。彼はマイクを使わず、「闘いの意味」について訥々とした口調で語っていた。
日大全共闘の闘いのピークは、1967年5月から69年春ごろまで。当時の日本大学は20億円を超える使途不明金などの問題が噴出。学生たちは全学共闘会議を結成し、秋田は議長に就任した。学生たちは各学部でバリケードを築き、角材や鉄パイプで武装。やはり武装した体育会系の学生や右翼と対峙した。68年秋には、3万人の「大衆団交」を実現させたが、その後、大学側が要請した機動隊によってバリケードが次々に取り壊された。秋田は69年3月に公務執行妨害などの容疑で逮捕され、同年12月まで勾留された。私が名古屋で聴いた演説は、保釈後の「遊説」だったのだろう。
秋田にはカリスマ的な人望があった。それは、彼が党派のイデオロギーに染まらず、自分の言葉で大学の腐敗を告発したからではないのか。
運動敗北後、しばらくは土木作業員に。新宿で自作の詩集『幻視行』を立ち売りし、映画に出演したこともある。今は故郷の広島県の倉橋島で、家業の自動車修理工場を営む。
私は72〜73年に、早稲田大学のキャンパスを暴力支配していた革マル派と非暴力で闘った。連日1万人を超える動員力を誇った日大全共闘が、もしも非暴力で闘っていたら……と夢想したが、もちろん、歴史に「イフ」はない。
秋田は2008年に産経新聞の取材に応じ、こう語った。
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source : 文藝春秋 2023年1月号