「ザ・ドリフターズ」のリーダーとして活躍し、晩年は演技力を評価されて数々のドラマに出演したいかりや長介(1931〜2004)。伊藤蘭氏はその背中から、多くの学びを得たという。
「8時だョ!全員集合」のアシスタントとして、レコードデビュー前のキャンディーズがレギュラー出演することになったのは1973年の春のこと。私は18歳でした。
当時、私たち3人にとって一番緊張したのがリハーサルでした。出演者が集まってもすぐには始まらず、いかりやさんはじっと考え込んでいて、リハ室はシーンと静まり返っています。私たちは部屋の片隅で、時間の過ぎるのを待つだけ。いかりやさんの考えがまとまると、ようやくコントのリハーサルが始まるのです。その静寂の時間を、誰もがじっとやり過ごす。
でも、その後で出てくるいかりやさんのアイデアはメンバーの個性が活かされ、大爆笑をさらっていく。そう考えると、あの静寂はいかりやさんにとって「儀式」のようなものだったのかもしれません。そして新人の私たちに、コントの難しさや生放送の厳しさを教えて下さっていたのだろうと思えてくるのです。
キャンディーズが解散して、俳優の仕事をするようになってからは、いかりやさんとの距離も徐々に縮まった気がします。「人生の楽園」という番組で、2人でナレーションを担当することになった時は、少しは俳優として認めてもらえるようになったのかな、と嬉しく思いました。ただ、この番組でも例の「静寂の時」が毎回あったようで、仕事に対する真剣さは昔のままでした。
ドラマでタイに行った時は、あまりの暑さに私がグッタリしていると、いかりやさんは笑顔で、「もうバテたのかい?」とやんわりたしなめて下さった。多くを語らず、場の雰囲気を微妙に変えることで、色々なことを教えて下さる方でした。
私にとっては“カッコイイ大人のアーティスト”。そんないかりやさんと一緒に作品に携われた時間は、今でも大切な宝物です。
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source : 文藝春秋 2023年1月号