ひとつの小宇宙のように、はてしなく長い時を刻み続ける機械式時計。時代を超え、世代を超えて、これからの100年を共にできる名品を紹介する。
構成=山下英介、写真=川田有二
スタイリング=石川英治(Tablerockstudio)、モデル=カレン・オスカー
腕時計が誕生し、普及をはじめてからおよそ100年が経つ。そしていま我々は、それがただ時を計測するだけではないものだと気づき始めた。日々進歩する機械は、だからこそすぐに時代遅れになるはずであるのに、機械式腕時計は1世紀前と同じ構造で動く。毀(こわ)れて打ち捨てられるでもなく、職人の手によってかならず直る。
腕時計が自分たちよりも長く生きることは、羨みを生まない。むしろその永らえかたに、自分がいなくなった後すら望んでしまう。「この腕時計はあいつに継がせよう」と考えることの、なんと甘美なことか。時間は積層して月日に、年に、そして時代となる。いま腕時計が測るのは、繰り返してきた過去を治癒しながら超えていく時代、向かう未来そのものだ。だからこそ、いい腕時計が必要なのである。
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source : 文藝春秋 2023年1月号