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「空白」が怖い
私は、63歳で前立腺がんの全摘手術を受けて以来、70代で胃・食道、80代で膀胱と、計4つのがんを経験している。それでこの歳まで生きている。ありがたい限りである。しかし、治療の途中では我ながら情けなくなるほど、不安で、怖くて、つらい想いをした。
だから、12月号の「世界最高のがん治療」、特に後半の特集四編は身につまされる思いで読んだ。「これだ」と思うことがいくつもあった。
中でも、終末期医療のパイオニアにして自らもステージⅣのがんを患い、抗がん剤治療を選ばなかった山崎章郎医師の『死後の世界はあってほしい』(聞き手・奥野修司氏)。山崎医師の言う「空白地帯」には深く共感した。
思い起こせば、私のがん体験の中で最も辛かったのは、何もしないで待つことだった。今後の治療方針を決めるための検査のたびに、結果を待つ。骨への転移がないか調べた時は、医師に「もしあったらどうなるのか」と尋ねると、「環境を変える……」云々と、歯切れが悪い。緩和医療しかないのかと不安になった。治療を待つ間の「空白」が一番怖いのだ。
私の4つ目のがんは、「再発性」という冠をかぶっている。今は死を恐れることにもだいぶ慣れたが、何かやっていないとやはり不安が募る。だから「インチキ免疫療法」にすがったり、宗教に救いを求める気持ちが痛いほど分かる。
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source : 文藝春秋 2023年1月号