レコードの音って、温泉のお湯と同じなんです

——2021年刊行の1冊目で486枚のレコードのレビューを書かれたことも驚きでしたが、まさか2冊目「更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち」(2022年12月15日発売)を続けて出されるとは思ってもみませんでした。あまり注目されていない楽曲も取り上げられており、村上さんが音楽を骨の髄まで愛されていることがよく伝わってきます。
2冊目の前書きで〈世界全体が「コロナ禍」という異様な状況に置かれていたという事情が、ひとつの大きな要因となっているだろう〉と書かれたことに注目しました。村上さんの生活は大きく変わったのですね。
村上 「古くて素敵なクラシック・レコードたち」を書いて出版したあと、まさか続編を書くなんて考えもしませんでした。なにしろずいぶん手間のかかる仕事で、へとへとになったから。でもコロナのおかげで外出や旅行をする機会もぐっと少なくなり、うちにいるとつい音楽を聴いて、音楽を聴いているとそれについて何か書きたくなってきて……結局なんのかの、2冊目を書き上げてしまいました。疫病はもちろん困ったものだけど、じっくり腰を据えて古典小説を読んだり、クラシック音楽を聴いたりするには良い機会だったかもしれませんね。ちなみに今のところ、僕はコロナに感染することなく、無事に生き延びています。この先どうなるかはまだわかりませんが。
眺めるだけで幸福な気持ちに
——「古くて素敵なクラシック・レコードたち」を書かれたきっかけを教えていただけないでしょうか。村上さんの小説にクラシック音楽もジャズと同様によく登場しますが、今回はなぜクラシック、またLPレコードだったのでしょうか。
村上 僕はアナログ・レコードのファンで、もう半世紀以上レコード・コレクションを続けています。音楽ももちろん好きだけど、それに劣らずレコードというモノ自体も好きです。手持ちのレコードを磨いたり、ジャケットやレーベルをぼんやり眺めているだけで、かなり幸福な気持ちになれます。中古レコード屋さんに行って、棚を漁るのも大好きです。時間と手間はそれなりにかかるけど、そういうのはぜんぜん苦にならないんです。

僕がこの本を書いた動機は、ほら、こんな素敵なレコード、面白いレコードもあるんですよと、みんなに紹介したかったからです。親しい人を自宅の客間に招いて、お茶でも飲みながら一緒に、むずかしいことは抜きで音楽を愉しむような感じで。そういう成り立ちの本ってこれまでなかったみたいだし、じゃあひとつ自分で書いてみようかと。
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source : 文藝春秋 2023年2月号