皆さんの中には、国民の声が政治に届きにくいと感じている方も多いと思います。私はその一つの要因に、派閥の存在があると考えます。派閥の最も大きな弊害は、とくに総裁選挙の時ですが、国民の負託を受けて当選してきた政治家が、理念や政策よりも派閥の意向を優先してしまうことです。政治家は政策を実行するために国会議員になったはずなのに、その信念に基づいた思いが時間が経つにつれ阻害されてしまう。
総裁選で派閥の意向に反発すれば、閣僚や党役員のポストからはじくとか、従った議員と差をつけるとか、私はずっと疑問に思ってきました。派閥に入っていなくても、政策本位で、適材適所にポストに就けるのが大事でしょう。派閥の領袖に従わなければならない、自分の意見を言えない状態にすべきではない。
この思いは、私の実体験から来ています。私は過去2回、総裁選で派閥の考えとは違う人を応援して、派閥に居られなくなる経験をしました。まず当選して初めての1998年の総裁選で、所属していた小渕派の小渕恵三さんではなく、梶山静六さんを応援しました。当時は野中広務さんの全盛期で、「あいつだけは許さねえ。政務官にしてやらねえ」と言われた。私は「政務官なんてやりたいと思っていません」とやり合ったことを覚えています。二度目は2007年の福田康夫さんと麻生太郎さんの闘いで、私は古賀派にお世話になっていましたが、意向に従わずに麻生さんを応援して結果的に派閥を出ました。雰囲気として居られなくなってしまう。以後、無派閥ですが、いろんな方に助けて頂いて、派閥なしでも生きて行けるようになりました。
なので私が総理大臣の時には、派閥の推薦は受けずに人事を決めました。逆に「派閥が推薦したら閣内に入れないぞ」という感じを出していました。昔は派閥の推薦枠に名前がなければ、閣僚になれないという時代がありましたけど。
岸田文雄総理はそんな昔に戻ったとまでは言いませんが、派閥とうまく付き合いながら人事を決めていると思います。岸田総理は未だに派閥の会長を続けていますが、小泉純一郎元総理も安倍晋三元総理も、総理大臣の時は派閥を抜けました。岸田総理が派閥に居続けることが、国民にどう見えるかを意識する必要があります。派閥政治を引きずっているというメッセージになって、国民の見る目は厳しくなると思います。
確かに派閥にも利点はあります。政治家は情報が大事ですから、政策実現のために省庁を紹介してくれたり、これまでの経緯を教えてくれたり。ただそれも当選回数別に連絡役を設けるとか、党改革で補えると思います。また議員の教育機関として派閥が必要という意見もありますが、どこまで教育が必要かという話です。委員会の先輩理事とか、いろんな縦のつながりもあります。私は新人議員を党主導で教育する体制を作るべきだと思います。
派閥というのはそもそも中選挙区制度に対応して生まれたものなのに、まだそこから抜け切れていない。小選挙区時代に合った党改革を進めて行けば、自然になくなる可能性はあると思います。派閥の解消は、今は世論の関心を集めていないけれども、誰かが唱え続けていかないといけない。私は党内で意見が出なくなることを心配しています。
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