日本への軍事的な脅威が高まってきた。中国、北朝鮮、そしてロシアからも、戦後の日本が忌避してきた軍事力の衝撃波がひたひたと迫る。
そんな状況にはまず日本が独自の抑止力を高めることが主権国家としての対応だが、現実にはそうもいかない。当面はアメリカの強大な軍事力を日本の安全保障に取り込む日米同盟の強化が優先課題となる。
日米同盟をどう強固にするか。長年、アメリカの対日姿勢の裏表をみてきた体験を基に考察を述べよう。
「国家にとって永遠な同盟はない。永遠なのはその国の国益だけだ」とは古いイギリスの賢人の名言だが、その同盟は国益に沿う限りはいくら長くても支障はないといえよう。
日米同盟は一見、堅固である。アメリカの歴代政権、共和、民主両党が一致する、数少ない主要な対外政策でもある。日本が第三国から軍事攻撃を受ければ、米軍は日本の自衛隊とともに共同防衛に当たるという責務は公約として確立されている。その誓約を支持するアメリカ側の世論も日本への近年の善意や信頼感から判断すれば、健在にみえる。
しかしこの表層の日米同盟のやや深部を探ると、意外な脆弱性や不安定要因に突き当たる。一言でいえば日米同盟の片務性、アメリカにとっての不公平要因である。この要因はトランプ前大統領の「アメリカは日本が攻撃されれば全力で日本を守る。だが日本はアメリカが攻撃されてもなにもせず、日本国民は家でソニーのテレビをみていればよいのだ」という簡明な言葉に集約できる。
日本との同盟はアメリカにとって全世界の多数の同盟のなかで唯一、片務的かつ不平等なのだ。NATOも米韓同盟も米豪同盟も、アメリカが本国や公海で攻撃されれば、同盟の相手は自国への攻撃とみなし、アメリカを助けることを規定している。だが日米同盟は日本の領土や領海のすぐ外でアメリカが攻撃されても、日本には共同防衛の義務はない。
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source : 文藝春秋 2023年2月号