太平洋戦争が終わった直後の1947年12月23日、米国ベル研究所において、ウィリアム・ショックレー、バーディーン、ブラッテンという三人の博士によって、「トランジスタの増幅作用」が確認された。翌48年に正式発表され、これが事実上の半導体産業の始まりであった。
大々的に記者発表されたものの、居並ぶ記者たちの中で、その重要性に気付くものはほとんどいなかった。ところが、極東の小さな企業は、このトランジスタの衝撃に気付いていた。死に物狂いで開発を進め、55年にはトランジスタラジオ「TR-55」を誕生させ、世界をあっと言わせる。この会社の名前は東京通信工業、後のソニーである。
トランジスタの公式発表から75年の歳月を経た今、半導体産業は約70兆円の巨大市場を築くに至り、年率二桁成長を続けるミラクル産業となった。最近では「半導体を制するものは世界を制する」とまで言われ、世界の国家安全保障、サプライチェーン、軍事防衛など政治・経済のすべてに影響を与えるほどだ。
半導体を巡る世界バトルは激化する一方である。米国のバイデン政権は7兆円を投入して半導体に対して徹底的な支援策をやると宣言し、1棟あたり1.5兆円を投資する巨大工場を米国本土に20棟建てる、とサプライズ戦略を打ち出した。米国企業も力強く動き出した。インテルはオハイオに3兆円以上を投入して巨大工場新設、テキサス・インスツルメンツも3兆円以上、マイクロンに至っては4兆円以上の設備投資で大型工場数棟を建てるという。
これに呼応して台湾のシリコンファンドリーのTSMCがアリゾナに新工場建設を決定。生産金額では半導体の世界チャンピオンであるTSMCは日本の熊本に1兆円を投入する工場建設も進めようとしている。
こうした動きは何を意味するのか。米国は国別の半導体シェアでは50%以上を握る大国であるが、米国本土で作る半導体の割合はたったの10%しかない。いまや半導体の80%はアジアで作られているのである。中国はこれまでに15兆円の巨額を投入し、半導体産業の育成に全力投球の構えである。仮に中国が台湾に侵攻し、ナンバーワン企業のTSMCを手に入れれば、米国の地位を脅かすことになる。
一方、わが国日本は国をあげての半導体支援策を進めると言明し、最先端半導体の開発・量産を行う新会社「ラピダス」を設立した。トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が73億円を出資し、日本政府は700億円を支援すると言い出した。
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