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★減税に沈む主税局
財務省の青木孝徳主税局長(平成元年、旧大蔵省入省)の表情が暗い。原因は岸田文雄首相による所得税減税だ。青木氏は普段、課長補佐を局長室に呼んで談笑するなど、部下に対しても気さくに接する。ところが、官邸との折衝が始まった9月下旬以降、その扉は固く閉ざされたままだ。
この間、影を落としたのが主税局の人材不足である。主税局審議官の小宮敦史氏(3年、同)は国際租税には詳しいが、官邸や自民党との駆け引きには疎い。中村英正審議官(同)も東京五輪組織委の実務を取り仕切った後、主計局次長として財務省に復帰したが、主税局からは約8年離れていた。「自民党税調に頼るしかない」(若手)のだ。
ところが、元大蔵官僚で税調会長を務める宮沢洋一氏(昭和49年、同)は蚊帳の外に置かれた。岸田派に所属する首相の縁戚だが頼りにならない。「財務省と一体とみているせいか、首相はあえて宮沢氏を外したがる」(主計局幹部)。
当の宮沢氏は「常識的には(減税期間)1年だろう」と早々に発言。省内では「あんな言い方をしたら党内は1年で収まらなくなる」(中堅幹部)との声が広がり、いまや「残念な先輩」と呼ばれる有様だ。
党税調で改正対象の税制を選別する小委員長は林芳正前外相、小委員長代理には加藤勝信前厚労相(54年、同)が座る。財政規律に理解がある重厚なメンバーだが、党税調が非公式の幹部会を開始した途端、「減税額4万円案」が報じられた。首相や萩生田光一政調会長らの「税調封じ」とみられている。
かつて「税調のドン」と呼ばれた山中貞則氏が君臨した頃は、首相であっても税制には容易に口出しできなかったが、いまや昔話だ。省OBは「首相の権限は確かに大きいが、税調も主税局もここまで言いなりなのか」(元局長)と後輩たちの凋落ぶりを嘆いている。
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source : 文藝春秋 2023年12月号