経営者は時に暴走する。それを防ぐため日本の会社には3種類の監督方法があるが、このうち最も優れた形態とされるのが「指名委員会等設置会社」だ。残りの監査役会設置会社と監査等委員会設置会社は会社を成長させるためにアクセルを踏む経営者(執行)に大きな権限が与えられているが、指名委員会等設置会社はブレーキ役である社外取締役が、場合によっては執行トップよりも強い権限を持つ仕組みだからだ。
指名委員会等設置会社は取締役会の中に3つの委員会を設置することが義務付けられている。取締役の選任など人事権を持つ指名委員会、取締役や執行の報酬を決める報酬委員会、職務執行の監査や監査報告書を作成する監査委員会で、各委員会ともメンバーの過半数を社外取締役が担うことになっている。これにより、執行は誰にも咎められずアクセルを踏むことはできない。
東芝は2003年に指名委員会等設置会社となった。表向きは優れた監督機能を持つことになったわけだが、不正会計が発覚、債務超過に陥った。苦肉の策で実施した第三者割当増資には、配当を増やせだの、自社株を消却して株価を上げろだのと声を張り上げるアクティビスト(物言う株主)が応じた。さらにその一部が関係者を社外取締役として送り込んだことで、経営が揺さぶられるようになった。21年の終わりから22年の初めにかけて執行は会社を分割することで再建を果たそうとしたものの、アクティビストが反対したため水泡に帰している。
22年に開かれた株主総会では11人の社外取締役が選ばれたが、このうち6人はアクティビストと関係が深い。それゆえ足元で既定路線となりつつある非上場化路線は、「そろそろ東芝株を手放して投資を回収しよう」という思惑が透ける。
社外取締役の本来の役割は公平な観点から経営者(執行)を監督することだ。しかし事態の推移を見る限り、東芝の社外取締役は監督よりも、自身あるいは自身の出身母体への利益誘導を優先しているように映る。
東芝と似たケースがある。資生堂がパーソナルケアブランド「TSUBAKI」を売ったのがそれだ。売却先であるCVCキャピタル・パートナーズというファンドの日本法人最高顧問である藤森義明氏は当時、資生堂の社外取締役にも就いていた。藤森氏は「資生堂側でもCVC側でもこの件についての検討や議論、決議に参加したことはない」としているが、監督を任された社外取締役が、自身が関わるファンドに利益誘導した可能性は捨てきれない。
一方、社外取締役に求められている役割を果たしているとは言い難いケースも多い。鉄道車両向け空調装置の検査不正が21年に発覚、当時の社長が辞任した三菱電機はその一つだ。不正は35年以上続いていたから、監督は機能不全に陥っていたとしかいえない。同社も東芝と同じく03年に指名委員会等設置会社となっているから、約20年間にわたって「名ばかり指名委員会等設置会社」だったことになる。
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