双葉十三郎「スタア」の頃

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 あなたの〈人生を決めた本〉について書くようにと言われて、考えていたところ、若い人に「あなたの場合、それは映画批評家の双葉十三郎さんの1冊じゃないですか」と言われた。

「あ、その手もあったか」

 私は思った。映画に関しては早熟といっても良い。小学生のころ(本当は国民学校(、、、、)生のというべきだが)町内の床屋へ行くと、待たされる間に本棚にあった「新映画」などを読んだ。なぜかシナリオを読むのは早いので、黒澤明の脚本の「姿三四郎」などはあっという間に読み上げ、特撮の裏話なども読んでいた。

小林信彦氏 ⓒ文藝春秋

 大学に入ってからもそれは続いていて、話す相手は同級の荻昌孝だった。彼は荻昌弘さんの弟だが、ここではそれは関係ない。いっしょに図書委員をやっていただけのこと。売れる前の昌弘さんに、高校で「ミモザ」という映画雑誌を出していたころの私は、20枚の原稿を頂いている。自分が初めて書いた長い原稿だから、改めて見せてくれないかと言われたことがあり、お金を払ってなくて、原稿もなくしてしまったのを謝ったことがある。雑誌は2、3号でつぶれていたのだ。映画批評家になろうなんて気持はなかった。それは食えまいと考えていたからだ。

 和菓子屋の十代目を継ごうなんて気持はなかった。正(まさ)しくその気もなかったので、朝5時に起きて餅つきなんていやな仕事だった。

 高校生の時の話だが、双葉十三郎さんが「スタア」という古い雑誌の編集長になり、いっきに「スタア」が面白くなったことがある。アステア、J・ガーランドが出る「イースター・パレード」が日比谷映画で封切られると、歌詞の邦訳を誌面に出すという具合で、双葉さんは自在なことをおやりになった。これはいいな、と思った。浮かれた気分のまま、双葉さんにファンレターを出した。双葉さんから大浮かれの礼状を頂いて、私はいよいよ夢中になった。やがて、乱歩さんに見出されて「ヒッチコック・マガジン」なるものを編集したのはこのため。弟(泰彦)が講談社で婦人雑誌の創刊を手伝っていたこともあるが。

 双葉さんにはもちろん連載をして頂いた。

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source : 文藝春秋 2023年5月号

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