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「広島極道はイモかもしれんが、旅の風下に立ったことはいっぺんもないんで」
今月号から始まった「小林旭回顧録」。小林旭さんといえば、私は『渡り鳥シリーズ』の滝伸次より、断然『仁義なき戦い』の武田明です。
冒頭紹介したセリフは、シリーズ第4作『頂上作戦』で、地元組織若頭の武田が対立する全国組織の岩井信一(演じているのは梅宮辰夫さん。三代目山口組若頭の山本健一がモデル)相手に言い放ったものです。
編集者人生で大切なことの多くを『仁義なき戦い』から学んだ私ですが(笑)、このシーンには強烈に痺れました。いくら相手が大きかろうが、強かろうが、弱気になるな、卑屈になるな。
「一歩も引くな。一歩引いたら相手は十歩でも百歩でも踏み込んでくるぞ」
「週刊文春」編集長時代、時の総理大臣など大物政治家や、あえて名前は挙げませんが、大手芸能事務所と対峙する時、現場に口癖のように言ったものです。
自分が手強い相手と向き合う時にも、常にこの言葉は胸に刻んでいました。偉そうなことばかり書いて恐縮ですが、なんでそんなに強気を通せるかといえば、「週刊文春」、今なら「文藝春秋」の看板を背負っているからです。
編集長として、この看板に傷をつけたり泥を塗ったりしてはならない。丹精込めて磨き上げなければならない。その覚悟が弱気の虫を封じ込めてくれるのです。
小林旭さんもインタビューでこんなことを語っています。
「看板スターと呼ばれるような人たちには所帯を背負っているという使命感があった。(中略)いまだに白髪頭のおじさんから、『マイトガイのあんちゃん』って呼ばれると嬉しくなるよ」
この「マイトガイ」の看板を守るため、小林旭さんは24時間、365日、スターであり続けようとしているのだと思います。
「看板を守る」「看板を磨く」、そして「その看板の価値を広く伝える」――。それこそがいまどきの言葉でいうと、「ブランディング」ではないかと私は考えています。
というわけで、本日開催の「文藝春秋 電子版」のオンライン番組「ブランディングの極意」に繋がるわけです(いささか強引ですか?)。
この番組は「編集長が聞く!」の第3回。第1回の萩生田光一さん、第2回の鈴木おさむさんに続くゲストは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんです。可士和さんは名だたる企業のブランディングを手掛けてきた方ですが、文藝春秋創業、「文藝春秋」創刊100周年に際して、記念ポスターとトートバッグをデザインしていただきました。
番組ではアッと驚く有名人がトートバッグを持っている写真を紹介しながら、制作の舞台裏を伺います。
さらには可士和さんと私の共通の知人であり、SMAP育ての親、飯島三智さんの“天才プロデューサー”ぶりについても語り合います。
ちなみに「小林旭回顧録」では、今後『仁義なき戦い』についても、たっぷり語っていただく予定です。
文藝春秋編集長 新谷学
source : 文藝春秋 電子版オリジナル