「敵は、恐怖心それ自体」

新世界地政学 第54回

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 パリとサン・ベルナルディーノで起きたISによるテロは、フランスと米国の国内政治を大きく変えつつある。仏国民戦線のマリーヌ・ルペンと米共和党のドナルド・トランプが、テロに対する国民の恐怖感をバネに、それぞれ大統領選挙に向けて躍進中だ。

 ルペンは叫ぶ。

「政府は、わが国の貧しい人々を放ったらかしにし、許可なしにフランスに流れ込んでくる外国人にあれこれくれてやっている。これって窃盗よ」

 トランプは吠える。

「イスラム系移民は全員、完全に閉め出せ」

 こんな発言が、「いいね」の連鎖を生み、保守政党を一層右よりに傾斜させている。仏共和党は、ルペンとほとんど変わらないような反移民政策を唱え始めた。米共和党では、中道派のジェブ・ブッシュが「シリア難民はキリスト教徒だけを受け入れるべきだ」と立場を変えた。

 ISは、一般市民の生活と憩いの場とその生活様式を標的にしつつある。欧米のど真ん中で、イスラム教とキリスト教の「文明の衝突」を起こさせようとしているのだ。

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source : 文藝春秋 2016年2月号

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