いつもご愛読いただき、ありがとうございます。
政局解説、ウクライナ戦争の分析から、宮崎駿さんの新作紹介まで、幅広い内容でご好評いただいている文藝春秋ウェビナーですが、6月に最も多くの会員を獲得したのは、鈴木智彦さんと西岡研介さんの「ヤクザはつらいよ」でした。
この番組はラーメン屋の店長をしていたヤクザの組長が殺害された事件を受けて、「ヤクザもつらいよな」とタイトルが浮かんだことからスタートしました。
はじまりはいつもそんな感じです。
西岡研ちゃんは以前にもこのコラムで紹介しましたが、私が「週刊文春」特集班デスク時代、最前線で一緒に駆けずり回った仲間です。関西出身で山口組のことは滅法詳しい。
一方の鈴木智彦さんとも、私は深い縁があります。
20年くらい前、「タイトル」という今は無きビジュアル誌(文藝春秋発行)で、アクション映画特集の名を借りたヤクザ映画特集を企画したことがありました。
今だから告白すれば、企画にかこつけて、大好きな映画「仁義なき戦い」の主人公で、菅原文太さんが演じた美能幸三さん(映画では広能昌三)に会いに行きたかったのです。
各方面に探りを入れてみると、ヤクザ専門誌「実話時代BULL」編集長の鈴木智彦さんという人は伝手があるらしいということで、お会いしたのが最初です。
第一印象はとにかく腰が低くて、ヤクザの話が超リアルで面白い。
「編集部に帰ると、よく電話に伝言のメモが貼ってあるんですよ。『●●組の▲▲様より、用件=殺すぞ』って」
美味しいプリンを手土産に持ってきてくれて、編集部の女性たちの好感度も高かった。
智彦さんのお陰で、美能さんへの広島県呉市での取材は成功し、「仁義なき戦い」が世に出るまでの数奇な物語を掲載することができました。
その後、「週刊文春」等を経て、文春新書の編集部に移った私は、智彦さんからプランを提案されます。新宿のヤクザマンションや西成の賭場への潜入・潜伏取材はもちろん、伝説の愚連隊と呼ばれた人物の意外過ぎる実像にも強く惹かれました。
出来た新書が「潜入ルポ ヤクザの修羅場」。今では9刷のロングセラーです。
私が智彦さんを信用できるのは、たとえば、「あとがき」に書かれたこんなくだり。
〈なぜこうした本を書いたのか? それは自分の人生を振り返り、暴力団を追いかけてきた理由が、単なる好奇心だったと分かったからだ。事実、私にはなんの正義感もなかったし、マスコミの大義名分も関係なかった。〉
3・11の福島第一原発の爆発事故の時には、一緒に「ヤクザと原発」という単行本を作りました(現在は文春文庫)。ヤクザの斡旋で福島第一原発の作業員をしながら、“シノギとしての原発”に迫る。うわべだけの正義感を振りかざすのではなく、体を張って真相を伝える――まさに智彦さんの真骨頂というべきルポでした。
その智彦さんのウェビナーですから、面白いに決まっています。自分でも事前に大宣伝してくれて、当日は私も知らないスクープ映像や秘話が乱れ飛ぶ。
ノンフィクション作家・本田靖春さんの「疵」を読んで以来、大いに関心を持っていた安藤組大幹部・花形敬のとっておきのエピソードには仰天しました。
大反響のウェビナーの後、いささか喋り過ぎたのか、智彦さんにはヤクザ方面から、やんわりとプレッシャーが掛かったそうです。
それを聞いた私は思わずこう言いました。
「よし、すぐに第2弾をやろう。タイトルは『ヤクザはこわいよ』」
というわけで、「ヤクザはこわいよ」、鈴木智彦×西岡研介は7月14日に決定しました!
百戦錬磨の二人が縮み上がった恐怖体験。稲川淳二さんの怪談より怖いかもしれません。
文藝春秋編集長 新谷学
source : 文藝春秋 電子版オリジナル