原瑠璃彦「洲浜論」

文藝春秋BOOK倶楽部

片山 杜秀 評論家
エンタメ 読書

天皇が重用した「国見」の道具

 洲浜。「すはま」と読む。あまり聞かない言葉だ。古語であろう。洲は水に囲まれた低地。字義通りに取れば水辺、川辺、海辺、洲の周囲となろうか。だが本書によれば本物の海浜等を洲浜と呼ぶ例は見つからないという。では何なのか。海岸を象(かたど)った台を特に洲浜と呼ぶ。旅館や食堂で朝食とか昼夜の定食が長方形の膳の上に載せられて出てくる。あの膳が方形でなく海岸のような曲線にデザインされれば洲浜だろう。より正確には洲浜台。ひとりで持ち運べる小さな台から、数人で運ぶ大きな台まで、いろいろあったという。今日でも結婚式などの飾り物の載る台として似たものを見かける。

 本書はそんな洲浜台の根源的意味を探る。そう、道具・什器の類いのマニアックな専門書と思ってはいけない。極めて壮大かつ圧倒的な構想力をもって、この国の本質にまで筆が及んでいる。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : エンタメ 読書