もう30年以上もテレビドラマを、連続ドラマを中心に書いてきました。ほとんどが地味な、目立たない、テレビドラマではあまり描かれることのない存在の人たちの物語を書いている気がいたします。
先日まで放送されていた「日曜の夜ぐらいは…」という連続ドラマも地味といえば地味な話でした。足の不自由な母と2人で団地暮らしで、朝から晩までファミレスで働いている女性。あることで家族から絶縁され、タクシーの運転手をしながら孤独に生きる女性。田舎で祖母と2人暮らしで、どうしようもない母のおかげで地域から冷たい目で見られ続けてきた女性。そして、男性社会のいわゆるホモソーシャルな空気に馴染めず、生きづらさを誰とも共有することのなかった男性。そんな人たちが出会って、お互いを理解し、大切に思い、労いあいながら、小さな幸せを掴んでいくドラマでした。
そんな、目立たない、でもたくさん存在する名もなき人の人生を描きたい、それが自分の使命だと思っているところがあります。
おそらくその原点となったのは、小学校低学年くらいのことだったと思います。母親と一緒にテレビドラマを観ていました。たぶんNHK、たぶん大河ドラマ。合戦のシーンです。馬の上には強く偉い武将。戦いをわくわくしながら観ていたのでしょうか。1つのシーンでとてもショックなことが起きました。
馬の上の武将に捨て身で戦いを挑んだ一兵卒の男。わ〜〜っと叫んで、一瞬で斬られてやられてしまいました。
それだけならよかったのですが、その死んでいったであろう無名の男の顔が、私の父親そっくりだったのです。観ていた私は電気が走ったような衝撃を受けました。
急に世界を見る目が逆転してしまったのです。
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source : 文藝春秋 2023年9月号