名画をのぞき込んでみると…
嫌われ者
カラスを好きな人は少ない。町なかで我が物顔にふるまうカラスは特にそうだ。真っ黒な体は大きく、鳴き声は美しくなく、知能が高いので人間の顔を認識して、いたずらを仕掛けることもある。子育て中だと気が立って威嚇してくる。雑食性で貪欲にゴミを漁る。もっともおぞましいのは、他の鳥や動物の死骸に群がって嘴でつつく姿だ。髑髏の上にとまったこのカラスも、まるで「ごちそうさまでした」と言っているようで憎々しい。
戦争を寓意化すると
ロシアでもっとも有名な戦場画家ヴェレシチャーギンは、なぜそんなに戦争画ばかり描くのかと問われ、「戦争への怒りにかられて」と答えている。
これは『トルキスタン戦争』シリーズ中の一作。額縁には画家の自筆で「過去、現在、未来の全ての征服者に捧げる」と銘文が記されている。征服者への捧げ物、それは山と積まれたしゃれこうべ(髑髏)だ。一つ一つに個性があり、額に刀傷を負っていたり、歯を嚙みしめていたり、逆さになって鑑賞者を見つめていたりする。
カラスの群れ飛ぶ広い青空の下、遠くに霞む低い連山や廃墟を従えた髑髏の山という表現は、まさに剛速球ともいうべき迫力で、ヨーロッパ絵画とは一味違った魅力がある。
ヴェレシチャーギンはペテルブルク海軍士官学校を卒業した軍人だった。しかし絵画への情熱止みがたく、退官して帝国芸術院(当時はロマノフ家の統べる帝政ロシア)に入学、その後パリに留学するなど研鑽を積み、世界各地をまわって風俗画を描く。
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source : 文藝春秋 2023年10月号