高層マンション50棟で明かりが点ったのは1割ほどだった
「逆に壮観だな」
目の前に広がる光景に思わず独りごちた。空き地が広がる荒野の中に、20階近い高層マンションが50棟ほど立ち並んでいる。その規模に驚かされただけではない。夜になっても窓に光が灯った部屋は全体の1割程度。人の気配をほぼ感じないゴーストタウンの姿に息を飲んだ。
9月末、私は貴州省貴陽市を訪れた。注目を集める中国の経済危機だが、不動産価格の下落にせよ、失業者の多さにせよ、大都市ほど被害は小さく、地方ほど大きいという傾向がある。貴州省は古来、「天に3日の晴れなし、地に3里の平地なし、民に3分の銀もなし」とうたわれた貧困地域であり、地方政府が深刻な財政危機に陥っていることでも知られる。中国の地方が抱える課題を見ることができると踏んだ。
高速鉄道で現地に到着すると、垢抜けない土臭さが漂ってきた。いや、建物は立派だ。駅舎も豪華で、街に出るとビルも多い。前回、訪問したのは10年以上も前になるが、その時とは雲泥の差だ。それでもやる気のなさそうな働き手、道端に広がる露店など、田舎くささが一目瞭然だ。公園にはパンツ一丁で青空賭け麻雀を楽しむ中年男性の姿が見られた。やはり中国の田舎はこうでなければ、とテンションが上がる。
貴陽市は常住人口622万人、省都として二線都市(一線都市は北京、上海、広州、深圳の4都市。これに続く第2グループの都市群を指し、2023年現在は31都市が存在する)に名を連ねている。マイクロソフトやアップル、ファーウェイ、アリババ、テンセントなど中国内外のIT企業が拠点を構え、「デジタルバレー」とまで呼ばれるようになったが、たんにデータセンターを作っただけという企業がほとんどで、経営や研究開発にたずさわる高給取りの人材はほとんどいない。
土臭さに加えて感じられたのが景気の悪さだ。先に訪れた上海市と比べると、繁華街でもシャッターを下ろしている店が多いなど明らかに空気感が違う。
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source : 文藝春秋 2023年12月号