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日本人にゴッホはなぜ人気? 中野京子さんと圀府寺司さんの対談にみた「美術愛」

編集部日記 vol.22

電子版ORIGINAL

エンタメ アート

 2023年、生誕170周年を迎えるフィンセント・ファン・ゴッホ。

 日本でも人気なこの画家について、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 孤高の天才画家? 日本に憧れた画家? 生涯1枚しか絵が売れなかった悲劇の画家?

 美術にお詳しい方でしたら、《ひまわり》や《星月夜》といった作品、弟・テオとの兄弟愛や、有名な「耳切り事件」などを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

 このようにイメージを挙げればキリがないゴッホですが、私たちが持つ彼の人物像は、そもそもどのように作られたのでしょうか。

 文藝春秋12月号では、ゴッホ研究の第一人者である圀府寺司先生(大阪大学名誉教授)と、本誌グラビア連載「名画が語る西洋史」でおなじみの中野京子さんのお二人に、日本人のゴッホに対するイメージがどのように作られたのかを語り合っていただきました。

 対談前は「会話が弾まなかったらどうしよう……」と少し心配されていた中野さん。口だけは達者な私は「精いっぱいサポートします!」と言ったものの、特段これといって場を盛り上げるようなプランはなし。

 とにかく資料を読み込むことしかできずに迎えた当日ですが……なんと、中野さんはゴッホの《花咲くアーモンドの枝》がプリントされた、鮮やかな空色のスカーフを身に着けて来てくださったのです。早速スカーフで盛り上がるお二人。中野さん、素敵です。そして、ありがとうございます。

《花咲くアーモンドの枝》 ⓒGRANGER/時事通信フォト

 次に話題は圀府寺先生の学生時代の話へ。とあるゴッホ作品に感動したものの、その数か月後に贋作だと知ったというオチ付きのエピソードに「お恥ずかしい……」と照れる圀府寺先生。ゴッホ研究のトップランナーゆえ、画家に関してふざけた会話は許さないような怖い先生だったらどうしよう……と思っていましたが、その柔らかい雰囲気にホッとしました。

 こうして始まってみると、予定していた1時間半の対談時間では足らないぐらいの盛り上がり! 「ゴッホのお父さん可哀想」「テオってなんて良い人!」と、“ゴッホ対談”は弾みに弾みました。中野さんは、豊富な知識を持ちながらも一般人目線でゴッホに対する疑問をぶつけてくださり、圀府寺先生はそれに対して研究者として的確に、かつとてもフランクにお答えくださいました。

 具体的な対談内容は本記事に譲りますが、圀府寺先生の言葉をひとつご紹介します。

「日本でファン・ゴッホ人気が高いのは、彼自身が日本に憧れを抱き、浮世絵の影響を受けていること、日本人にあまり馴染みのない古代神話やキリスト教図像を知らなくても鑑賞できること、そして刺激的な人生や、そこから作られる映画や小説……様々な要因が複合的に組み合わさっています。こういった人気も、ファン・ゴッホの家族たちが遺産を大切に保存し、我々が作品や資料を目にすることができたからこそでもあります」

 ゴッホ一族が遺産を大切にしたからこそ絵画作品や手紙などの資料が残り、そこから作られた展覧会やゴッホに関する小説・映画を目にすることで、冒頭のように私たちの中に様々なイメージが形成されていき、日本人気に繋がっていった……というわけです。

 一見至極当然なことのように思いますが、実はこれは「ゴッホならでは」の理由があるので、ぜひ本記事をお楽しみください。

 圀府寺先生と中野さんの対談はその後(良い意味で)脱線しまくり、展覧会の監修をされたことがあるお二人だからこその、日本の美術館が抱える問題についての話題も。問題点を挙げるだけでなく、圀府寺先生は現状を打破すべく本記事にて「ある提案」もしてくださっています。

中野京子氏(左)と圀府寺司氏 ⓒ文藝春秋

 お互い「楽しくしゃべり過ぎた」と言いながら対談は終了。お二人の美術愛と、愛ゆえに訴えた日本の美術界の問題点。圀府寺先生は関西ご在住ですが、また東京にお越しになった際には是非この続きを聞きたい……。そう思うような対談でした。


(編集部・大岡)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : エンタメ アート