〈映画『月』受賞記念対談〉石井裕也×角川歴彦 俳優たちは「広告がなくなってもいい」という覚悟で撮影に臨んだ 

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 石井 先日、『月』の初日舞台挨拶にいらっしゃいましたね。

 角川 そう。サプライズで。みんな、ビックリしただろうな。

 石井 していましたね、渦中の人が突然現れたので(笑)。

 角川 こう言っては失礼だけど、普通、映画の舞台挨拶って、どこか軽いじゃない。作品が完成してから公開までに時間があって、既に緊張感が解けているからなのか、メディア受けを狙った発言ばかりして。でも今回は違った。

 例えば主演の宮沢りえさんは、出演するにあたって、「内容的には賛否両論あると思いましたけど、ここから逃げたくないという気持ちが強く湧いたので参加させて頂いた」と語っていた。二階堂ふみさんは、事件について皆が「関心が薄れていったり、考えるのを止めていってしまうことが怖い」と言っていました。俳優の方々のスピーチにとても熱がこもっていたんです。

 石井 私も一緒に登壇していましたが、皆さんの映画に出演することに対する覚悟の伝わってくる、素晴らしい挨拶だったと思います。

 角川 映画を見終わった時、会場から自然と拍手が出ていました。

 石井 あ、そうでしたか。

 角川 カンヌなどの映画祭などではあるけれど、商業映画ではなかなかあそこまでの拍手は無い。これはやっぱり作品の力だよ。

宮沢りえも撮影前に施設でのケアの仕事を体験した ©『月』製作委員会

『舟を編む』『茜色に焼かれる』などの作品を手掛けてきた石井裕也氏(40)が監督、角川歴彦氏(80)が企画者として携わった映画『月』。今作は、2016年7月26日、相模原市の知的障害者施設「津久 井やまゆり園」で、元職員の植松聖が、入所者19人を殺害した事件に着想を得た作家・辺見庸の同名の 小説『月』(KADOKAWA)が原作だ。小説は、体を動かすことも話すことも出来ない障害者施設の入所者「きーちゃん」の心象世界を中心に描かれ、元職員の「さとくん」が施設で凶行に及ぶ。

 映画では元有名作家・堂島洋子(宮沢)が主人公だ。彼女は売れない人形アニメーション作家の夫・堂島昌平(オダギリジョー)とつましい生活を送っている。小説を書けなくなった洋子は重度障害者施設で働くことになり、そこで作家を目指す若い職員の陽子(二階堂)や、さとくん(磯村勇斗)と出会う。動くことも話すことも出来ない入所者の「きーちゃん」に自分を重ねる洋子。一方、さとくんは当初、職員による障害者への理不尽な処遇に憤慨していたが、徐々に自分の中で、ある“理想”を抱き始める――。

「辺見さんの作品はすべて読んでいます」

 角川 僕は以前、石井さんが撮った『舟を編む』を、温かい映画だなと思って見たんです。アカデミー賞外国語映画部門の日本代表作品にも選出されていましたね。

 石井 ありがとうございます。2013年公開ですから、もう10年も前のことなんですね。

 角川 あれは三省堂の辞書編集部がモデルだよね。

 石井 そうですね。作中では玄武書房という架空の出版社が舞台ですが、制作にあたって三省堂の辞書編集部の方に全面協力してもらいました。

 角川 うちの会社も辞書を出しているから、「KADOKAWAでも良かったのに」と思ったりしました(笑)。

 今回の『月』も、『舟を編む』と同じように、温かい作品に仕上がっていました。現実の殺人事件をモデルにした難しい題材だったけれど、まったく下品じゃない。石井さんはもともと、辺見さんの作品のファンだったんだよね。

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