国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
NHKの連続テレビ小説「ブギウギ」が好調です。私はもともと朝ドラのファンですが、「ブギウギ」は、私が中学の頃から好きな笠置シヅ子の人生を描いているので、とりわけ注目しています。主演の趣里さんの、シヅ子が乗り移ったような演技には圧倒されます。
ドラマではシヅ子(役名はスズ子)のヒット曲が続々登場します。1939年の「ラッパと娘」(詞と曲・服部良一)を趣里さんが熱唱するのを聴きながら、ふと「不思議な歌詞だな」と、今さらながらに気づきました。
〈トラムペットならして スィングだして/あふればすてきに ゆかいな/あまいメロディー〉
そう歌っているのですが、〈スィングだして/あふれば〉の部分がよく分かりません。「あふれば」って何だろう。
おそらく「溢(あふ)れれば」で、「れ」が1個脱落したのではないか、と私は考えました。「目をしばたたく」が「目をしばたく」になるように、重なった音が脱落する現象があります。旧仮名遣いでは「煽(あお)る」を「あふる」と書きますが、それとは関係ない、とも考えました。
SNSでつぶやくと、日本語学者の岡島昭浩さんから返信をもらいました。自分は「煽れば」だと思っていた、「煽る」を旧仮名遣いどおり「アフル」と発音した例はある、というのです。
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source : 文藝春秋 2024年1月号