「文化勲章を受けられての御感想は?」
これが、その日に行われた記者会見での最初の質問だった。
私一人でなく他の人たちも同じ質問を受けたのだから、このような席では月並であろうと穏当でもある質問、ということになるのだろう。質問する側にも同情した。「文化」の定義なるものからして不明確になる一方の時代に、何を質問すればよいというのか。私も適当に何か答えはしたのだが、何を言ったかは覚えてもいない。
とはいえ、いかに年は重ねてもそれに比例して人柄のほうも円満にはならなかった私のこと。これまでの五十年以上の歳月でしてきた仕事を認められて嬉しい、とか、歴史文学にもこれからは陽が当るようになるだろうから、後進の人たちのためにも喜ばしい、とかのまっとうな言辞は、まちがっても私の口からは出なかったろう。
もしも正直に私の想いを口にしていたとしたら、それは次のようになったと思う。
「これからは堂々と時代遅れをやります。以前もそうだったからたいしたちがいはないけれど、同じにやってもこれからは、堂々と、というところがちがうだけ」
何のことはなく開き直りにすぎないのだが、これから述べるのはその具体例。
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source : 文藝春秋 2024年2月号