焼きたての鮭に、熱々のお味噌汁。山の上ホテルに「カンヅメ」のあの頃──
もう四十年も前のことになる。
あの頃のサブカルチャーのうねりを、うまく表現することは出来ないけれども、人間の評価に「センス」というものが加わり、それを持っている人たちが権力をふるい始めた。YMO、原宿セントラルアパート、ビックリハウス、サディスティック・ミカ・バンド、マガジンハウスと、さまざまな固有名詞をあげることが出来る。その中でもひときわ輝きをはなっていたのが、コピーライターという職業であった。
しかもコピーというのは、一行で済むらしい。なんといい職業であろうか。
当時、ウソかホントか、
「一行一千万」
という言葉が、さらに若者の心をそそった。私が入学した夜間のコピーライター養成所は満員だったと記憶している。やがて私は小さなプロダクションを経てさらにチャンスをつかもうと、糸井重里氏のコピー塾に入った。糸井氏は、コピーライター界のスーパースターであるばかりでなく、時代の寵児として燦然と輝いていたのである。
とにかく目立とうと、最前列に座り手を上げ続けていた私は、糸井氏の目にとまり、弟子兼電話番として雇われることとなった。氏はほどなく、私にコピーライターとしての才能がまるでないことを知るのであるが、いきがかり上、フリーで食べていけるようにしてくれた。その中の仕事に「熱中なんでもブック」というPR誌の編集があった。今は亡きアナーキーな天才、秋山道男さんの元に、中野翠さんらが集まったのである。
前置きが長くなったが、この中に中野さんの知り合いの編集者が一人混じるようになった。主婦の友社に勤める松川さんという四十代の男性で、遊び半分バイト半分、という感じで事務所に出入りしていたのだ。
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