「文藝春秋」休刊

菊池寛アンド・カンパニー 第26回

鹿島 茂 フランス文学者
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ひたすら戦争遂行に協力し、手にした報酬は……

 菊池寛はその独特の戦争観、すなわち、たとえ戦争に反対であっても開戦となった以上国家に全面協力するという原則に従い、昭和12年7月の日中戦争勃発以来、文壇の有志とともに銃後運動につとめてきたが、それでも昭和15年1月16日の阿部内閣瓦解に際しては政府の無能ぶりに苛立ちを隠すことはできなかった。

「我々は阿部內閣びゐきでも何でもないが、戰時中に、內閣がいく度も、更迭するのは、國民としてやり切れない」(「文藝春秋」「話の屑籠」昭和15年2月号)

 そんななか、5月頃からにわかに活発化してきたのが後藤隆之助や有馬頼寧などの近衛側近による近衛新体制(新党)運動であった。菊池寛はこの近衛新体制運動に全面的に賛成したが、それは近衛内閣が戦争を早期に終わらせてくれると期待したからであって、その逆ではない。大衆もまた同じであった。筒井清忠『戦前日本のポピュリズム 日米戦争への道』(中公新書)はそのあたりをこう分析している。

「近衛文麿と後藤隆之助が考えたのは、既成政党とは異なる全国民に根を張った国民組織を作り、その団結・政治力を背景として強力な挙国的政治体制を確立し軍部を抑え支那事変を解決する、という構想であったという」

 だが、新体制運動は近衛の思惑通りに大衆的フィーバーをもたらしはしたが、結局のところ日中戦争の終結に繋がることはなかった。新体制運動が熱を帯び、近衛内閣実現に向かって歩みを始めたちょうどその頃、ヨーロッパではナチ・ドイツの快進撃が続き、オランダ降伏(5月15日)、パリ無血入城(6月14日)、ヴィシー政権樹立(7月10日)などを伝える外電が次々に舞い込んだため、「バスに乗り遅れるな」という付和雷同的興奮が日本中を覆って、7月22日に成立した第二次近衛内閣を思わぬ方向へと連れ去ったからだ。

 すなわち、近衛内閣は、日・独・伊にソ連を加えた全体主義4カ国同盟を構想する外相・松岡洋右に引きずられるかたちで、日・満・華に東南アジアやインド・オセアニアを加えた「大東亜新秩序」建設を基本方針として掲げ、北進論から南進論に大きく舵を切ってしまったのだ。フランスとオランダの降伏でインドネシアの石油へのアクセスが容易になると考えたからである。

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source : 文藝春秋 2024年2月号

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