「多様性」を下支えするもの
歌舞伎町の北側に住んでいた頃、歓楽街の中心部でもその周縁でも、日本語以外の言葉で話す人を見る機会は多かった。観光客ではないとわかるのは、邪魔な場所で立ち止まったり不自然な行動をしたりして街の円滑な流れを止めることなく、東京の日常に溶け込んでいるから。溶け込んで見えるようになるために彼らがどんな努力をして、どんな困難を乗り越え、自らの身体と日本の「普通」とのすり合わせをしてきたかを想像することはほとんどなかった。
西の歓楽街である大阪・ミナミのとある「教室」を舞台とした本書は、新聞記者兼ボランティアとして長期的にそこに関わった著者が出会った人々の記録だ。住民の3割以上が外国籍という地区で、「教室」にはフィリピン、中国、ブラジルなど様々なルーツと様々な困難、そして様々な希望を持った子どもたちが集まる。主な目的は学校がカバーしきれない個別の学習支援だが、自ずと家庭の問題も含めた手助けや安心できる居場所としての機能も持つようになった。著者らボランティアは子どもの隣に座り、話し相手になったり宿題の手伝いをしたりする。
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source : 文藝春秋 2024年2月号