「小さく見つけてやさしく治す」
がん治療については、手術・薬物療法(従来の抗がん剤や分子標的薬などによる治療)・放射線治療が、久しく「三大標準治療」とされてきた。近年は免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法が第四の標準治療として注目されているが、病期がおおむねⅢ期までの固形がんの場合、根治を目指す「手術」が治療の第一選択肢となる点は昔も今も変わらない。
しかし、身体にメスを入れる手術は侵襲性(身体への負担)が高く、かつ、全摘手術によって取り除かれた臓器の機能は、永久に失われることになる。ましてや生まれて初めて受けるがん手術ともなれば、不慮の術死をはじめ、手術後の苦痛、手術に伴う合併症や後遺症など、外科手術にまつわる不安や恐怖は否応なく膨れ上がっていく。
有効な治療法がほかにあるなら、できれば手術は受けたくない……。
12年前、東大病院で人生初となる大腸がん(S状結腸がん)の切除手術を受けた時の私がそうであったように、外科医から手術を勧められた患者や家族は、手術が第一選択肢であることを受け入れながらも、心のどこかで「手術に代わる治療法は本当にないのか」と自問を繰り返しているのではないか。
そんな中、10年来の付き合いがある関西在住のがん治療医から次のような情報が舞い込んできた。
「兵庫県神戸市に手術に代わる“低侵襲”のがん治療を積極的に提供している『がんセンター』がある。一度、取材してみてはどうか」
「手術と遜色のないレベル」
外科手術に代表される「侵襲医療」に対し“切らない医療”を「低侵襲医療」という。腹腔鏡や胸腔鏡などによる手術が低侵襲手術と呼ばれていることは知っていたが、この12年、がんサバイバーとしてがん取材をライフワークにしてきた私も、「低侵襲」を標榜するがんセンターの存在など耳にしたことがなかった。しかも、開院は2013年というから、まさにこの10年で様変わりしたがん医療を検証するにふさわしい探訪先になると、私は考えた。
そのユニークながんセンターは、六甲の山並みや神戸の街並みを北方に望むポートアイランドの一角にあった。関西圏を中心に「手術室のないがんセンター」として知られる神戸低侵襲がん医療センター(以下、低侵襲センターと略す)である。
「『手術室のないがんセンター』という特徴も含め、『低侵襲がん医療』に特化したがん専門病院は、日本広しといえども当院だけです」
開院当初から理事長と病院長を兼務してきた藤井正彦医師は開口一番、こう強調し、開院に至った背景や経緯を次のように話す。
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