“公開謝罪番組”の放送作家はなぜ崩壊と再生を描いたか(聞き手 新谷 学・文藝春秋総局長)
――沢山のバラエティ番組やドラマに携わってきた鈴木おさむさんが、3月31日をもって放送作家業から引退されます。今日はその記念すべき3月31日ですね。
鈴木 そうなんです。今日は、サイン会から生配信、そしてこのインタビューと、私にとって“いちばん長い日”になりそうです。
――小社から発売された単行本『もう明日が待っている』には、“小説SMAP”というキャッチコピーを付けたのですが、その執筆秘話についてもお聞きしながら、テレビ業界へ言い残しておきたいことについても伺いたいと思います。
『もう明日が待っている』は、鈴木氏が書いた小説だ。1996年の放送開始から社会現象にもなったバラエティ番組「SMAP×SMAP(スマスマ)」の放送作家として、20年以上の月日をメンバーに伴走してきた鈴木氏が、その舞台裏で起きていた事実をモチーフに描いている。初版5万部でスタートしたが、異例の2日連続重版で、発売からわずか2日で累計発行部数は15万部を記録。知られざるディテールの詰まった内容に大きな注目が集まっている。
鈴木 この本は「SMAP×SMAP」が始まり、森(且行)くんのグループ脱退や人気絶頂期での木村(拓哉)くんの結婚、一時は30%超を記録した視聴率の低下、東日本大震災など数々のピンチを乗り越え、伝説を作り続けてきたSMAPと、僕をはじめスタッフたちの物語を小説にしたものです。
華々しく国民的スターとなっていったSMAPが、2016年1月18日の放送、つまりグループの解散報道について緊急生放送で謝罪した「公開謝罪放送」で、一夜にして崩れていく様子も描いています。あの裏で何が起きていたのか、そしてその先にある“彼らの明日”についても書きました。
罪の意識から引退を決意した
公開謝罪放送の番組構成を書いたのは、放送作家である主人公の「僕」。オーケーを貰っていた構成案が急遽ボツになり、グループが所属する老舗タレント事務所を経営する「ソウギョウケ」から指示された文章を、あるメンバーに言わせることになってしまった。それ以降、「自分はあの謝罪放送を流してしまった放送作家なんだ」という罪の意識が、ずっと残っていたんです。
《春田がADから渡されたものは「紙」だった。5枚だけコピーされた紙。
その紙を全員に渡した。
A4の紙に打たれた文字がびっしりと上から下まで並んでいた。
事務所の人がその紙が何かを伝えた。
そこに書いてある言葉は、彼ら5人が所属する事務所を作った「ソウギョウケ」のトップの1人であり、この日本で、唯一無二のプロダクションを作り上げてきた女性によるものだった。(中略)
まず、僕が作ったメンバーの言葉に対して、強烈なダメ出しがあった。
僕が作った言葉が、何の意味もなく、何一つ大切なことを伝えてないことを凄まじい熱量で訴えていた。
事務所のOKが出た時点で、安心していたが、この人には通じなかった。ダメだった。》(『もう明日が待っている』より)
鈴木 あの放送の後、僕はずっと罪悪感を引きずったまま過ごしていました。2019年頃、山下達郎さんのライブに行く機会があって、『LAST STEP』という別れの曲を聴いたとき、ふと「やめよう」と思ったんです。
――放送作家を辞めようと?
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