日本陸軍には、当時最新鋭だった「鉄道」を使った作戦を専門にした部隊が存在していた。大陸に渡った彼らが遂行した作戦とは―――。ノンフィクション作家・早坂隆氏が鉄道連隊の謎を解き明かす「文藝春秋 電子版」オリジナル連載第3回。(第1回、第2回から読む)
南満洲鉄道の線路を爆破
時代はいよいよ激動の昭和へと突入する。
明治以来、徐々にその規模を拡大してきた鉄道連隊も、まさにその渦中にあった。戦地における鉄道の運用や補修、復旧、敷設などを担う鉄道連隊は、時代の表舞台に出ることこそ少なかったが、彼らの存在を見過ごしてはいけない。「裏方」にこそ、歴史の真の「匂い」が漂う。
昭和史の始まりと言えば、満洲事変を思い起こす人が多いだろう。その発端にあったのも「鉄道」だった。
昭和6(1931)年9月18日の午後10時20分頃、中華民国の奉天(現・瀋陽)の北方約8キロに位置する柳条湖で、南満洲鉄道(大連~長春間)の線路の一部が爆破された。
日本側は中国軍の犯行と断定し、関東軍(満洲に駐屯する日本陸軍の部隊)を出動させ、翌日には南満洲の主要都市を占領。その後、5ヶ月ほどで広大な満洲のほぼ全域を制圧した。
しかし、鉄道爆破事件の真相は、関東軍による自作自演であった。南満洲鉄道は日本が日露戦争の勝利によってロシアから譲渡された鉄道であり、そもそも関東軍はこの鉄道およびその沿線を守備することを主な任務としていたが、その関東軍が満洲占領のための口実として、南満洲鉄道を爆破したのである。
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