歴史は韻を踏む。破壊の時代の次には、秩序再生の時代がやってくる
今、われわれは“世界大乱”の渦中に投げ込まれつつある。すでに数年前から、その徴候は至るところで表面化していた。しかし昨年後半から、一気に足下が崩れるような「世界秩序の崩落」がついに現実となってきた。この冷戦時代にもなかった歴史的な「地殻変動」の光景を決定づけたのは言うまでもない、昨年10月7日に端を発したイスラエルとイスラム武装組織・ハマスとのパレスチナ自治区ガザをめぐる紛争である。
少なくとも中東がこれほどまでに危機的様相を帯びるのは、あの「オイルショック」をもたらした1973年の第4次中東戦争以来、およそ半世紀ぶりのことだ。この日、突如イスラエルに侵入した原理主義勢力であるハマスは子供の首を切る、性的暴行を加えた上で殺害するなど、酸鼻極まる残忍な手口でイスラエル市民を中心に1200人以上を虐殺した。このテロ攻撃は当然、国際世論の憤激を買った。
イスラエルのネタニヤフ政権は、ただちに「人質解放」を旗印に軍事作戦を展開したが、この報復もまた非人道的なものだった。東京都を上回るほどの人口過密地域であるガザ市への攻撃では多数の非戦闘員が巻き添えとなっている。さらにイスラエル軍は100万人超の避難民が逃げ込んでいる最南部ラファへ連日空爆まで行い、本格的な地上侵攻が始まれば、数十万人単位の犠牲は避けられないだろうと見られる。
この紛争では、イスラエルの非道を強く批判できない西側諸国の“ダブルスタンダード”も改めて露わになり、米欧の国際的孤立も深まっている。ネタニヤフ政権は明らかに国際法における自衛権の範囲を超えた反撃を行っており、これでは「絶滅戦争」と非難されても仕方がない。ガザ紛争では欧米の信奉する「人権」や「法の支配」が大きく踏みにじられているのだ。この流血の悲劇は最後に「誰がガザを統治するのか」という難問も抱えており、将来世代にわたって禍根を残すだろう。
加えて、3年目に入ったウクライナ戦争の見通しも暗転し始めた。昨年夏からのウクライナ軍による反転攻勢が失敗に終わり、勝利が遠のいた欧米諸国は“支援疲れ”の有り様だ。特に米国は議会が空転しており、ウクライナをこれまで通り武器支援するという国家意思の発動さえ危ぶまれている。戦争が長期化すればするほど、兵器の製造能力など地力で勝るロシア軍が有利になるというプーチンの冷徹な読みが現実のものとなりつつある。加えて、最大の政敵だったアレクセイ・ナワリヌイ氏の「暗殺」で一層独裁体制を強めたプーチン・ロシアはその陰惨な存在感を増している。
この“世界大乱”に日本を含む西側の世論は急速に悲観論へと傾斜し始めている。しかし、私は2年前、本誌に発表した論文「第三次世界大戦の発火点」(2022年5月号)で、すでに世界が危うい「歴史の吊り橋」を渡っていることを指摘した。私からすれば、目下の事態は大筋、予測可能だったものであり、あえて言えばその先も見通しやすくなったと言える。世論が悲観一色だからこそ、本稿の後半では「2028年の希望」についても指摘しておきたいと思う。
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