前田啓介『おかしゅうて、やがてかなしき 映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像』

今月のイチ推し新書! 第3回

平山 周吉 雑文家
エンタメ 映画 読書 歴史

「評」と「伝」で迫る“戦中派”の姿

 生誕100年にして書かれるべくして書かれた本が出現した。『日本のいちばん長い日』の監督であり、『独立愚連隊』の監督でもあり、戦中の青春を描いた『肉弾』も撮った岡本喜八は「戦中派」であることにずっとこだわった。昭和史をテーマに取材する新聞記者・前田啓介によって書かれた評伝は、映画「評」論部分と「伝」記部分が融合して、岡本喜八の肖像が立ち上ってくる。

前田啓介『おかしゅうて、やがてかなしき 映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像』(集英社新書)1485円(税込)

「評」と「伝」を繋ぐ最も重要な素材は、取材の過程で偶然にも発見された岡本の戦中日記である。遺族もその存在を知らなかった日記は、昭和17年(1942)9月から翌年11月まで、明大専門部の学生時代から東宝で助監督となる時期にあたり、10代最後の記録だ。

「オンナ共がムヤミに目につく。イヤにキレイなドーブツだと、シミジミ思う」

「苦しかった。ゼンゼンツラカッタ。“試験”てェヤロウの横ッ面を何度、ハッタオしてヤリタク思った事か」

 本の中では2歳年上の医学生・山田風太郎の日記と比較されるが、風太郎の「硬」と喜八の「軟」はどちらも戦中派の代表的な青春であった。山本五十六の国葬の日には珍しく殊勝になる。

「海行かばを歌って居たら目がカスンで来た。/司令長官で戦死されるんだ。オレ達がタマに当って灰となるのも極々当り前の事ではなかろうか」

 将来の志望は映画監督と決め、故郷の親爺の了解を取り、東宝を受験する。

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source : 文藝春秋 2024年4月号

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