日本各地の集落を訪ね歩き、人々の暮らしを記録し続けた民俗学者の宮本常一(1907〜1981)。著書を愛読する鈴木敏夫氏が、宮本常一との「必然の出会い」を語った。
高畑勲、宮﨑駿と出会って間もない頃。宮本常一の『忘れられた日本人』(1960〔昭和35〕年)の話になった。ぼくが読んでいないと告白すると、宮さんから「え!? 読んでないんですか? 無知ですね」と言われた。悔しくて、彼らが読んでいる本は全部読んでやろうと決心した。
さっそく手に取った『忘れられた日本人』は、驚きの連続だった。昔の村にはこんな世界があったのか! ページをめくる手が止まらない。中でも衝撃的だったのが、「土佐源氏」のエピソード。四国の山村で、牛の売買を仲介するばくろうをしていた男の一生を、宮本常一が聞き書きしたものだ。
その男は母親が夜這いで身ごもった子で、祖父母に育てられた。学校にも行かず、やることのない男は、子守り奉公をしている女の子たちの仲間に入って遊ぶようになる。
雨の日、納屋の中で少女たちは性的な遊びを始める。彼女たちに求められるまま、男は全員と交わってしまうのである。さらに、大人になってからは村々をめぐり、何人もの人妻や後家と関係を持っていく。
猥談と言えば猥談。フィクションも交じっているのだろうが、具体的で真に迫った語りに引き込まれた。そこから、ぼくは宮本常一の本を貪るように読み始める。
同じ頃、今村昌平監督の映画『楢山節考』(1983年)が公開された。原作者の深沢七郎は、ぼくが最も好きな作家の一人。小説は何度も読んだ。ただ、映画は原作以上に“村”をリアルに描いていた。ある一家が村八分に遭って、生き埋めにされるシーンは壮絶。夜這いや獣姦など、生々しい性描写もある。
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