宮本常一 メモは全てカタカナで

101人の輝ける日本人

神崎 宣武 民俗学者
ライフ 社会 歴史

生涯にわたり旅を続け、近代化で忘れられていく日本の姿を記した宮本常一(1907〜1981)。民俗学者の神崎宣武氏は、武蔵野美術大学在学中から宮本民俗学に師事した。

宮本常一

 宮本先生に初めて会ったのは、昭和39年。週刊読売の記事を一読、「先生らしくない顔をした面白そうなおじさんだ」と、着任したばかりの研究室を訪ねた。先生は「いいところへ来た」と言わんばかりに喋りまくり、私が岡山の神主の倅だと聞くと各地方の神主の拝み方の違いを熱弁した。何度か通ううち、「あっちへ行こう」「こっちへ行こう」と連れ出され、終いには「就職なんてやめて、歩け」。成り行き任せの私は先生にすっかり惑わされたのだ。

神崎宣武

「咳払いや笑い声以外は全部書け」調査では後ろでひたすらメモを取った。漢字では追いつかないから、全てカタカナでと教わった。

宮本氏(左)と神崎氏(左から二番目)。調査に出る前の打合わせ(1975年 神崎氏提供)

 先生は、相手の話すことに従ってひたすら時間を費やす。項目だけ聞き取るような方法には懐疑的だった。

宮本氏(左から二番目)と神崎氏(左)。調査に出る前の打合わせ(1975年 神崎氏提供)

「爺さんたちから話が聞けるのは、軍隊時代の苦労話や自慢話が済んでからだ」「婆さんたちから話を聞くのは、息子の自慢が出た後だ」と。じっくり時間をかけることが難しくなってきた時代だからこそ、私に強く言ったのだろう。

昭和40年12月24日、広島県三原市での調査風景(鮓本刀良意撮影、三原市教育委員会所蔵)

「決して主流になるな。傍流であればこそ状況がわかる」とは、パトロンとして宮本民俗学を支えた渋沢敬三さんの教えだ。実際、生涯のほとんどを肩書きを持たずに過ごした。私には、「民俗学は落穂拾いだ」「選り好みをするな」「田舎のエリートになるな」「とにかく歩け。歩かなければ本を読め」と繰り返した。

宮本常一と渋沢敬三 ©文藝春秋

 晩年に取り組んだのは、「日本文化の形成」と「海からみた日本」。日本人とはどういう民族か。考古学や文化人類学に広がる壮大な考察は、未完に終わっている。不肖の弟子の手には負えなかったが、残された断片は時代を経て繋がると信じている。

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source : 文藝春秋 2023年1月号

genre : ライフ 社会 歴史