オダギリジョー脚本・監督の長編映画『ある船頭の話』が、9月13日から全国で公開される。日本らしい風景が残る山奥の村に、ある日、近代的な橋が架かり始める。時代の変化に飲み込まれていく村人たちの中で、私は時代の流れに取り残される船頭を演じた。
夏の撮影は昨年の7月下旬から8月の終わりまで行われたが、フィルムでは静かな世界として映し出される山村も、実際には大変暑い川原で、陰や逃げ場がない、なかなか過酷な環境だった。
そういえば、『坂の上の雲』で乃木大将を演じたときは、逆に寒くて過酷だったなあ……と思い出したりもするが、別に好きも嫌いもない。俳優とはそういう仕事である。
監督の狙いなのだろう、『ある船頭の話』はどこか普遍的で寓話的で、「昔こういう話があったな」と思わせる。けれどよく見ると登場人物の女の子の服装はどこか中国風だったり(衣装はワダエミさん)、クリストファー・ドイル(撮影監督)による外国人が見た日本、というカメラも相まって、映画の表に見えているものとその奥に流れているものとは違うと感じさせる。
「想像しないで大丈夫ですよ」と全部見せてしまう映像作品がほとんどの中で、この映画は「想像してみて下さい」と言う。そういう意味では本当の「映画」だと思う。
うちは息子たちも俳優をしているが、要は、みんな映画ファン。演じることより、映画が好きである。僕の両親も歌舞伎や映画好きで、僕の出ている映画を喜んで見てくれた。僕の息子たちも小学校のときにフレッド・アステアは全作品見ている。アステアの写真を壁に貼って、アステアのレコードを聞きながら、アステアのビデオを流しているという家に育った。
わが家では映画が共通の話題で、1年に見る映画は200本は欠かさない。家で見るビデオは見たものにカウントしないことになっている。映画館で見るのが映画だから。
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source : 文藝春秋 2019年10月号