「エッセイはできれば書かずに済ませたい」という。翻訳家として名の知られる著者による、6冊目のエッセイ集である。
「考えていることなんてないから、そんな空っぽの私には何も書けないと常々思っています。苦手で苦手でしょうがない」
30年前、雑誌編集者の友人たっての依頼を断り切れず書いたことがきっかけだった。才能を見出され、連載が始まる。
「ある時、読者の方から苦情の電話が入ったと聞かされました。『あのページはくだらない。なんとかしてくれ』と。それで心が決まりました。もうずっと、バカバカしいことだけ書いていこうって」
“エッセイスト・キシモト”が誕生した。
子どもの頃から出不精で面倒くさがり屋だった著者はあらゆることを想像で補い、ことごとく裏切られてきたという。
遠景から、地面が青いと思っていた富士山。〈登ったら、その青い土をたくさん袋につめて帰るのだ〉。幼心をときめかせて登った山は、〈どちらかといえば汚い感じの場所〉だった。(『ねにもつタイプ』ちくま文庫)
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source : 文藝春秋 2024年8月号