「プツ…プツ…」。都会の喧騒から離れた蔵の中で、きょうも微生物たちが小さな音を立てている。私たち日本人が日常的に口にする、醤油、味噌、酒。これら発酵食品はすべて、そんなあえかな微生物の声に人間が耳を傾け、手を加えることで生み出されている。人間の智恵と自然の調和が作りだすもの、それが発酵食品なのだ。
筆者、小倉ヒラクさんは「発酵デザイナー」(見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにするひと)を自称し、日本の発酵文化をデザイン、出版、イベントなどを通して広める「発酵文化の伝道師」だ。本書は、約8カ月、全国70カ所を巡って、日本の知られざる発酵文化を掘り起こし、その成り立ちや現状を見つめた旅の記録である。
「前職でアートディレクターとして地域の町興しに関わる中で、私たち日本人が忘れてしまったものがたくさんあることに気づきました。日本のローカルな発酵文化を見つけるだけでなく、私たちの暮らしや未来へのヒントになるものを探しながら“日本のアナザーサイド”を明らかにしようと旅を続けていきました」
八丁味噌(愛知県岡崎市)のようなよく知られた発酵食品から、群馬県の焼きまんじゅう(前橋市)のように、実は発酵食品だったもの、そして、「あざら」(宮城県気仙沼)、「むかでのり」(宮崎県日南)、「ごど」(青森県十和田)など、滅びかけながらも、その価値に目を留めた人たちの手の中で生き続ける発酵食品に出会っていく(詳細は本書で)。
「日本だけでなく、世界中で、放っておくと忘れられてしまう、あるいは文化として定義されていない発酵食品が、まだたくさんあると思います。それらを“点”のまま埋もらせておくのではなく、点と点を繋げて“面”にし、文化として育てていくことが自分の大事な使命だと思っています」
本書は、「地方の本屋さんを大切にしたい」との思いから、流通にもこだわった。取次販売や委託販売をせず、6〜7割を書店と出版社の直接取引にし、買切に力を入れたのだ。「小売の粗利を上げる」ことが目的だった。複数冊買ってくれた書店のため、大手のネット販売をせず、全国の書店を回るイベントも実施した。
「街場の本屋が無くなっていることは文化の危機だと思います。自分に何ができるのか考えてこの形に落ち着きましたが、本というより、醤油や味噌の売り方に近いです(笑)」
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source : 文藝春秋 2019年10月号