美しさと存在感で日本中を魅了した女優・夏目雅子(1957〜1985)。27歳で世を去ってから40年近く経った今も、その微笑みは人々の心で生き続けている。俳優でエッセイストの中井貴惠氏が友人として接した夏目の素顔とは――。
私が雅子ちゃんと一緒に過ごしたのはたった2年でしたが、その日々は今も鮮明に覚えています。それほど彼女との時間は私にとって濃密なものでした。
雅子ちゃんとは、昭和58(1983)年のドラマ「妻は告白する」での共演を機に知り合いました。同い年で、ともに小学校から女子校育ち……と共通点があるのを知っていたので、勝手に親しみを抱いていたんです。当時すでに彼女はカネボウのCMやドラマ「西遊記」で注目を集めていたのですが、“女優然”としたところがなかった。すぐに打ち解けて、家にも遊びに行く間柄になりました。
雅子ちゃんは、周囲を和ませる天性の素質を持っていた。撮影所では寒い中、セットの隅で一斗缶に炭をくべ、共演者が車座になって暖をとっていましたが、その真ん中には、いつも彼女がいました。そして出番を終えた役者を見つけると、「こっち、こっち」と手招きして呼び寄せ、輪の中に誘い込むのです。
かと思えば、こっそりいたずらを仕掛けてくることも。私がカメラ前に立ち、アップシーンを撮影していたら、雅子ちゃんがそっとカメラの後ろに回り、歯に海苔をくっつけてニヤッと笑ったんです。悲しい表情をするシーンだったのに、思わず笑ってしまいました。
お茶目な一方で豪快なところもあり、とにかくお酒が大好き。グラスが空いている人を見たら即座に注ぎ、自分も飲む。あんなに一升瓶が似合う女優を私は他に知りません。
昭和58年の日本アカデミー賞では、『鬼龍院花子の生涯』で彼女が主演女優賞に、私は『あゝ野麦峠 新緑篇』『制覇』で助演女優賞にノミネートされ、会場の控室で一緒になったことがありました。テーブルに飲み物が置かれており、係の人が進行の流れを説明し、一同が耳を傾けていた時、「プシュッ」と音がした。見たら、美しい振り袖姿の雅子ちゃんがビールの缶を開けていたんです(笑)。
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