「誰もが出世ばかり考える、あの時代の沸騰感が私は気持ち悪かった」(聞き手 伊藤彰彦・映画史家)
――8月に、本誌連載に大幅加筆して『仁義なきヤクザ映画史』(小社刊)という本を出しました。1冊にまとめるにあたり、どうしても男性中心になってしまう「ヤクザ映画史」への痛烈なアンチテーゼとして、加賀さんにインタビューさせてもらいました。加賀さんがかつて主演された、石原慎太郎原作、篠田正浩監督『乾いた花』(1964年)は、封建的な人間関係に縛られた任侠映画を否定する、画期的なヤクザ映画だったと思っているからです。
インタビュー内容は私の新刊でお読みいただくとして、当時のことを語る加賀さんのお話で印象深かったのは、『乾いた花』が撮影され、同時に東映ヤクザ映画が始まる、東京オリンピック直前の空気が嫌で仕方なかったと言われていたことです。
加賀 みんなが上を向いて前に進もうとしていたと美しく語られるけれど、要するにあの時代は、誰もが出世することばかり考えていた気がするのね。あの時代の沸騰感っていうのかな、それがもう、私は気持ち悪かった。私は立身出世には興味ないし、うちの家庭には、いい大学出ていい会社に入るという発想の人は誰もいませんでしたから。
――当時の映画を観ると、高度経済成長で明るい未来がやってくるんだという、エネルギッシュな勢いを感じさせる作品が多いのですが。
集団就職の若者たち
加賀 でもそれは時代の表面的な部分でしょう。実際に現場で高速道路を作ってる人たちは、一体どこから東京に来て、どういう仕事をしてるんだろうとか、私の関心はそっちのほうに向かいました。撮影現場でも、「そこ、撮影入るからどいてください」とか、働いてる人たちに対して偉そうに言うんだけど、「もうちょっと丁寧に言ったらどう?」と私はいつも思ってましたね。そういうのが一番嫌いなの。地方から出てきた人たちが大勢、建築現場で働いてたでしょう。そういう人たちが支えたからこその高度成長期じゃない。私はどうしても、就職列車に乗って上野駅にやってきた中学生のほうを見てしまうんです。学校でも、いじめられた方をケアして、いじめっ子をやっつける方だったから。
――加賀さんのそういう義侠心は、どこで育まれたんでしょうか。
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source : 文藝春秋 2023年10月号