日本初の女性弁護士であり、裁判所長となった三淵嘉子(1914〜1984)。その姿がドラマ化され人気を博したが、弁護士の佐賀千惠美氏はいち早く三淵に着目、1991年、『華やぐ女たち 女性法曹のあけぼの』(早稲田経営出版)を著した。
NHKの朝の連続テレビ小説「虎に翼」のヒロイン「寅子」のモデルが、三淵嘉子さんでした。
昭和60(1985)年、私が東京地検の検事を辞めて数年後、3歳と1歳の2人の子の育児と家事に専念していたときです。たまたま出版社の人から、日本に女性で初めての弁護士が生まれたのはいつかと尋ねられて、私は答えられませんでした。
手探りで調べ始めたら、昭和15(1940)年に3人の女性弁護士が誕生していたことが分かり、この事実に私は驚きました。なぜなら、当時は旧民法下でもあり、女性には選挙権もなかったからです。さらに驚いたのは、その方たちに関するまとまった本がなかったことです。私は、誰かがその記録を残しておかなければ忘れ去られてしまうと焦りました。今にして思えば、昭和59(1984)年に亡くなった三淵嘉子さんの、一周忌のころのことでした。
幼い子どもをかかえてのインタビューや執筆作業は、それなりに大変でした。しかし、昭和の終わり頃であったからこそ、まだ残っていて提供してもらえた資料も多かったし、嘉子さんを知る方がたはまだほとんどがご健在でした。
取材を進めるなかで圧倒されたのは、嘉子さんのすぐれた頭脳と意思力、自己中心性と自我の強さ、他人への思いやりと献身、そしてそれら全てに基づくパワフルな行動です。
嘉子さんは裕福な家庭で育ち、弁護士にもなったものの、第二次世界大戦中には2歳の息子をかかえ疎開先で苦労をしました。そして終戦の前後は、実弟の戦死、夫の戦病死、実母と実父の病死という、四つの悲しみが相次ぎ、経済的にも精神的にもどん底でした。そのころの嘉子さんは、ひどく泣いて顔が紫色でむくんでいたことが、目撃されています。
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